コラム

NBCが試合中継で画期的なカメラアングルをテスト

2017年12月03日(日) 10:33

スカイカム【AP Photo/Keith Srakocic】

NFLのテレビ中継でフィールド内の上空から選手たちを見下ろすようなアングルの映像を見たことがある人は多いのではないだろうか。あれはスカイカムと呼ばれるカメラシステムで撮影されたものだ。スカイカムはスタジアムの四隅の高い位置から伸ばされた4本のワイヤで、画像の揺れを低減するスタビライザー付きのリモートコントロールカメラを吊るし、それぞれのワイヤの長さやテンションを変えることでフィールド上空を自在に移動しながら撮影できる仕組みになっている。人気NFLビデオゲーム『マッデン』シリーズで使われる画角がスカイカムに似ていることからマッデンカムと呼ばれたりもする。

スカイカムが最初に使用されたのは1984年にレイダースとレッドスキンズが対戦した第18回スーパーボウルのテレビ中継で、意外と歴史は長い。その後、2001年まではスポーツ中継には使われなかったものの、再導入されると急速に普及したのである。ただこれまではリプレーやスポット的な使用がほとんどだった。

それを大きく変える試みをシーズン第11週サーズデーナイトフットボール、タイタンズ対スティーラーズ戦の中継を担当した『NBC』が行った。スカイカムを中継のメイン映像として、試合を通して使用したのである。

スカイカムによる画角は攻撃チームの後方約15フィート(約4.5m)の高さからフィールドを縦に見たものとなっていた。これまでのフィールドを横に見た画角とは全く違ったものである。

このスカイカムの画角は選手がどんな速さでどんな風に動くかが分かりやすいという特徴がある。例えば、ワイドレシーバー(WR)やランニングバック(RB)のルートが見えるし、パスプレーでオフェンシブライン(OL)が作るポケットやそこに殺到するディフェンシブライン(DL)のラッシュの様子なども分かりやすい。

対してフィールドの奥は小さくなってしまうので、見にくくなる欠点もある。20ヤードを超えるようなパスが投げられた場合、従来のカメラなら水平方向に振るだけでよかったが、スカイカムだとカメラの移動が追いつかないのでズームアップしなければならず、急激な画面の変化に視聴者が”酔う”可能性が出るのだ。

こうした長短があるものの、NBCはこの画期的な試みを実行したのである。実は今回の導入にはあるきっかけがあった。それは第7週サンデーナイトフットボール(SNF)、ファルコンズ対ペイトリオッツ戦でのテレビ中継だ。この試合もNBCが中継を担当したのだが、会場のジレット・スタジアムが霧に覆われてしまい、従来の横方向のカメラでは選手の動きが捉えられなくなってしまったのである。そのため選手とカメラの距離が近くできるスカイカムをメイン画像にしたところ高評価を得たのだ。

さらに第9週のSNF、レイダース対ドルフィンズ戦ではハーフタイムに使われた花火の煙が第3クオーター開始後もフィールド上に残っていたため、再びスカイカムの画像をメインに使う事態も起こった。

こうした2回の緊急対策で得た手応えがNBCにスカイカム画像のメイン利用を決断させたのである。実際、NBCでフットボール中継を担当するエグゼクティブプロデューサーのフレッド・ガウデリは声明で「ニューイングランドでの霧でスカイカムを使うことを迫られた後、われわれはゲーム全体でシステムを利用することを意図して積極的にプランを建て、テストしてきました。NFLファンの中でも若い世代はビデオゲームへの愛を通じてこのアングルからフットボールを見て育っています。この放送はその経験に似た見た目と感覚を持つでしょう」と語り、マッデンを意識したものであることも明かしている。

では放送の反響はどうだっただろうか。ソーシャルメディアの投稿などを見ると評価は真っ二つに分かれたようだ。スカイカム画像を受け入れたファンには「なぜ全てのネットワークがスカイカムを今以上に使用しないか自分には分からない。プレーの様子を見るのに最高の見え方だ。じゃなければマッデンをプレーしろ」や「このアングルを嫌う人が理解できない。全試合スカイカムにすべきだ。これは教育的なものだ。意味のない恐れ以外スカイカムを使わない理由がまったくない」などと全面的な支持を訴えるものが多かった。

対して新たな画角を嫌うファンの熱量も支持者のそれと変わらず「フットボールを見るのをやめる。カメラアングルを再び偉大にしよう!」とトランプ大統領のフレーズをもじった投稿をはじめ、「オーバヘッドカメラで十分。フィールド全体を見せるカメラに戻せ」といった意見や力を込めて「ただやめてくれ。こういう眺めを見たいときはマッデン14をプレーするから」と使用停止を訴えるものもあった。

メディア関係者の間でもその評価は分かれ、キャスターのブレント・マスバーガー氏は「視聴率はファンに結びついているもので、未来のコーチにじゃない」と切り捨てる一方でスポーツ専門局『ESPN』のミナ・キムス記者は「選手の才能を理解しやすく、各プレーの結果をより正確に評価するのが簡単になる」と高評価していた。

NBCによればスカイカムをメイン画像とする中継はとりあえずこの1試合のみの予定だが、数週間かけて今回の結果を分析し、今後の方針を決めるとのことだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。