イーライ・マニング“降格”に対する違和感
2017年12月02日(土) 14:36NFL入りした2004年シーズン第11週からジャイアンツの先発クオーターバック(QB)の座を守り続け、その間にスーパーボウル制覇を2度達成したイーライ・マニングが次週のレイダースでベンチに下げられることが明らかとなった。今年のオフにジェッツから移籍してきたジーノ・スミスが先発出場する。
今季のジャイアンツはここまでわずか2勝しかできておらず、その大きな原因は得点力の欠如だ。1試合平均15.6点はリーグワースト2位である。昨年後半から指摘されていたことだが、今季も改善が見られない。
オフェンスライン(OL)はパスプロテクションがもたず、レシーバーはドロップを重ねる。今年のマニングはNFLで最もパスをドロップされるQBの一人だ。レギュラーシーズンも残り5試合となり、プレーオフが絶望的な今、ベン・マカドゥーHC(ヘッドコーチ)が下した決断はQB交代だった。
今季も数多くのチームで不振を理由にQB交代劇が行われてきた。そのたびに抱く違和感をやはりジャイアンツにも見いだしてしまう。それは「その交代は本当にチーム強化につながるのか」という疑問だ。
今年のマニングは明らかに不調だ。弱いOLやぽろぽろボールを落とすレシーバー、オデル・ベッカムの不在など彼に不利な条件が多いのは事実だが、ワイドオープンとなっているレシーバーへのパスのコントロールが乱れたり、サードダウンなど肝となる場面で判断をミスしたりする姿が目立つ。だからといってスミスに代えたところでジャイアンツオフェンスが改善されるとは思えないのだ。
別のチームに目を向けよう。ブラウンズは今季新人のデショーン・カイザーを開幕先発にしたが、不調のためにコディ・ケスラーに代えたものの、結果が出ずに再びカイザーを起用するなど迷走している。
ブロンコスも同じ理由で開幕先発のトレバー・シミアンから出戻りのブロック・オズワイラーへバトンタッチし、それも効果がないとみるや故障あがりのパクストン・リンチまで投入した。これも成果は表れていない。
当たり前である。こうしたチームは前任者より有能な、つまりはチームを勝たせるQBを登用しているのではない。“まだ負けていない”QBをあてがっているだけに過ぎないのだ。その意味でジャイアンツも同じである。計画性のない、行き当たりばったりの愚策だ。
シーズン途中のQB交代が成功するのは、ドラフト1巡から2巡で指名してフランチャイズQBに育て上げる予定の選手をよきタイミングで投入するケースだ。まさにマニングがそうだった。彼は新人シーズンの前半分をかけてNFLのシステムに慣れ、満を持してカート・ワーナーからポジションを受け継いだのだ。
今年、大きな成長を見せているラムズのジャレッド・ゴフも同様。約1年前の昨シーズン第11週にケイス・キーナムからポジションを奪い、潜在能力を次々に発揮する形で進歩している。
今回の降格はジャイアンツにおけるマニング時代の事実上の終えんを意味する。このままバックアップに甘んじるとは思えず、オフにはジャイアンツを退団することになるだろう。現役引退の意志はまだないだろうから、新天地を探すことになる。そして、ジャイアンツもまたドラフトに新QBの人材を求めるだろう。
好意的な見方をすればジャイアンツは、同地区ライバルのイーグルスやカウボーイズで進んでいるQBの世代交代を断行する一歩を踏み出した。しかし、QBにいい人材を見つけるのは簡単ではない。期待して行使したドラフト高巡位指名権が無駄になって低迷期に突入する可能性だってあるのだ。
こうしたリスクを負う覚悟がジャイアンツにあるか。それとも勝算があっての決断か。いずれにせよジャイアンツは新たな時代を迎えようとしている。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。