コラム

NFLのライバルXFLが復活?

2017年12月31日(日) 10:24

XFL初のキックオフを前にスクランブルでボールを勝ち取ったラスベガス・アウトローズのジェメル・ウィリアムズ【AP Photo/Laura Rauch】

NFLのライバルリーグが戻ってくるかもしれない。2001年の1シーズンだけ存在したXFLだ。

XFLは当時のWWF(ワールド・レスリング・フェデレーション)、現在のWWEとメジャープロリーグの中継から撤退していた『NBC』が共同で設立したプロリーグだった。“リアルフットボール”をキャッチフレーズにフルにバンプ・アンド・ランが許されたり、フェアキャッチがなかったりなどNFLより制限が少ないルールでより過激で迫力のあるフットボールをうたい文句にしていた。また、演出面でも現在は普通になったスカイカムをはじめ、フィールド内にハンディカメラが入っての撮影、選手にマイクをつけてその音をスタジアムや放送で流すといった、当時は斬新な手法を取り入れたことも行われたのも特徴だ。

ニューヨーク/ニュージャージー・ヒットメンやラスベガス・アウトローズなど8チームが参加。ロサンゼルス・エキストリームに所属したクオーターバック(QB)トミー・マドックスなど元NFL選手も多い中、メンフィス・マニアックスには現在Xリーグ、IBMビッグブルーのヘッドコーチを務める山田晋三がラインバッカー(LB)として活躍したりもした。

シーズンはNFLとのバッティングを避け、スーパーボウル終了後の2月に開幕し、当初は狙い通り注目を集めた。ただ開幕当初のプレーの質が低かったこともあり、急速に人気が低下。WWFとNBCは1億ドルの投資に対し、3,500万ドルの損失を出したとされ、4月に最初で最後のXFLチャンピオンシップでエキストリームが優勝した翌月、リーグの解散が発表されたのである。その後、2005年までにはXFLの商標登録も放棄されていた。

そんなXFLの復活にWWEの重鎮ビンス・マクマホンが動いていると最初に報じたのはスポーツライターのブラッド・シェパードだった。12月16日にマクマホンがXFL復活を目指しており、1月25日に発表するかもしれない、とツイートしたのである。

さらにWWEの広報担当者がスポーツサイト『Deadspin(デッドスピン)』の取材に対し、WWEの広報担当者はマクマホンが「プロフェッショナル・フットボールを含むスポーツとエンターテインメントを横断する分野での投資開拓のため、WWEとは別組織としてアルファ・エンターテインメントに個人的に資金提供した」とコメントし、この動きを否定しなかった。さらにスポーツ専門局『ESPN』は「別組織のアルファ・エンターテインメント設立が主目的」という名目でマクマホンがWWE株1億ドル分を売却したと報じている。また同局のXFLを扱ったドキュメンタリー番組でリーグ復活の考えがあるかという問いにマクマホンは「ある。何が起こるかは分からない。別のXFLなのか、何なのか、どう違うものになるかは分からない。何らかの形でNFLやオーナー達と連携するかもしれない」と語っていた。

デッドスピンはさらに昨年9月にアルファ・エンターテインメントが“URFL”と“UrFL”の文字列を登録したと伝えており、マクマホンの頭文字が付けられたVKMベンチャーズが同時期に“フォー・ザ・ラブ・オブ・フットボール”と“ユナイテッド・フットボール・リーグ“を商標登録申請していたことが判明したと伝えた。URFLが何の略称かは分かっていない。

どうしてマクマホンは一度は失敗したXFLの復活、新リーグの設立を考えたのだろうか。推測できるのはNFLの人気停滞だ。アメリカでのテレビ視聴率はここ2年に渡って低下傾向にある。その理由はいくつかあるとされ、一つは国歌斉唱時に選手たちが行う人種差別への抗議行動に反感を覚えている人が少なからずいるということだ。その典型としてトランプ大統領が批判し、大きな議論になったことは記憶に新しい。さらに安全性への配慮から近年はルールの規制が厳しくなり、激しいプレーが減り、NFLの魅力が失われていると指摘されることも多い。

こうしたことを是正できるリーグの設立が可能だと、トランプ大統領と親しいマクマホンが考えているのではないかというのである。大失敗と考えられていることが多いものの、いくつかの功績も残したXFLは本当に復活するだろうか。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。