コラム

2試合先発出場で見えてきたイーグルスQBフォールズの弱点

2017年12月30日(土) 09:19


フィラデルフィア・イーグルスのニック・フォールズとオークランド・レイダースのデニコ・オートリーとカリル・マック【AP Photo/Chris Szagola】

NFC最高勝率を誇るイーグルスはシーズン第16週マンデーナイトゲームで苦しみながらもレイダーズを19対10で退け、13勝目(2敗)をあげてプレーオフ第1シードを確実とした。これでイーグルスはプレーオフで勝ち続ける限り、ホームのリンカーン・ファイナンシャル・フィールドで試合を行う権利を獲得した。

エースクオーターバック(QB)カーソン・ウェンツがACL断裂で今季絶望となってからもチームは2戦2勝でQB交代の影響を最小に抑えているように見える。特にニック・フォールズにとって今季初先発となった第15週のジャイアンツ戦では序盤に2タッチダウン差をつけられながらも、最終的には4タッチダウンパスを成功させて逆転勝ちを収めている。現地メディアは「QBが代わってもイーグルスのオフェンスは好調を維持」と評価した。

しかし、やはりフォールズはウェンツではない。その違いはレイダーズ戦で顕著だった。ウェンツとフォールズの大きな違いは機動力だ。ウェンツは自分の脚力を生かしてスクランブル発進するのに対し、フォールズはあくまでもポケットの中でレシーバーを探し続ける。

ウェンツのスクランブルは必ずしもランで距離を稼ぐだけのものではない。スクリメージラインを超えない範囲で動き回ることでパスラッシュを回避し、さらにレシーバーがディフェンダーからセパレートする時間を稼ぐこともできる。パスラッシュによってプロテクションが破られたプレーでも、ウェンツがポケットの外に走り出ることで立て直すことが可能なのだ。

こうしたプレースタイルはイーグルスがサードダウンコンバージョンでファーストダウン更新率が高いことと無関係ではない。

ところが、フォールズはポケットの外に出ることがほとんどないため、パスプロテクションが押し込まれれば逃げ場がなくなってボールを投げ捨てるか、サックを浴びるしかない。また、動くことのないQBはパスラッシャーにとっては格好の標的だ。レイダーズ戦でフォールズは2回サックされ、それ以上にパスを投げ捨てる場面が多かった。

ウェンツが故障したラムズ戦の前週までのイーグルスのサードダウンコンバージョン成功率は45.9%と高い水準を誇る。しかし、フォールズが先発した最近2試合は25.9%にまで落ちた。レイダーズ戦では14回のサードダウンで1回しかファーストダウンを更新することができなかった。

ファーストダウン更新を重ねることで時間をコントロールし、高得点をあげてきたイーグルスオフェンスにとってこの事実は無視できない。トップシードで臨むとはいえ百戦錬磨の強豪がひしめくプレーオフでは致命的となりかねない。

幸いにしてイーグルスとフォールズにはまだ時間がある。プレーオフ初戦までは2週間の間隔が空き、最終週のカウボーイズ戦で実戦経験を増やすこともできる。この試合は消化試合なのでフォールズがフルに出場することはないかもしれないが、オフェンスとのタイミングをより合わせるにはいい機会だ。

この間にフォールズの機動力欠如という弱点をいかに克服できるか。イーグルスのスーパーボウル進出への鍵はここにある。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。