コラム

プレーオフ開幕! ワイルドカードはここに注目

2018年01月04日(木) 05:30

2017年シーズンプレーオフ:ワイルドカード【Associated Press/NFL】

第52回スーパーボウル特集 > ワイルドカード見どころ

レギュラーシーズンが終わり、いよいよプレーオフが始まる。今季は昨年とは違う顔ぶれが8つもあり、NFCはファルコンズを除いてすべてが入れ替わった。久しぶりにポストシーズンを迎えたチームも多く、ビルズは1999年以来で18年ぶり。NFLはおろか北米プロスポーツリーグ最長のスランプにようやく終止符を打った。NFCの出場組ではラムズが13年ぶりと最も長い期間を経てプレーオフに戻ってくる。

現地時間2月4日(月)、バイキングスの本拠地USバンク・スタジアムで行われるスーパーボウルへのノックアウトラウンドは今週末のワイルドカードから始まる。その見どころを探ってみた。


タイタンズ(9勝7敗)@チーフス(10勝6敗)


タイタンズは最終週にジャガーズに勝ってAFC第5シード枠を獲得した。2008年シーズン以来のプレーオフだ。終盤に3連敗するなど必ずしも勢いがあるわけではない。しかし、オフェンスにはQBマーカス・マリオタを始めとしたビッグプレーメーカーが揃っている。マリオタは2015年のNFLデビュー以来、レッドゾーンでは39タッチダウンパスに対して被インターセプトがゼロと高い得点率を誇る。

RBデリック・ヘンリーは65ヤード超のタッチダウンランまたはパスキャッチが今季3回あり、NFL最多だ。スピードがあるので抜けてしまうとエンドゾーンまで到達する確率が高い。

チーフスは昨年に続いてのプレーオフ進出だ。2年連続での地区優勝はフランチャイズ初の快挙でもあった。開幕5連勝のあと1勝6敗とスランプに陥ったが、最終的に4連勝で締めくくり、チームは上り調子だ。

QBアレックス・スミスはパサーレーティングでNFLベストの104.7を記録。シーズン中はショートパス中心だったが、序盤の連勝中はロングパスも効果的に決まった。昨年もプレーオフでは積極的な姿勢を見せたが、今季も同様の戦略を練ってくるだろう。新人RBカリーム・ハントは1,327ヤードを走ってフランチャイズのルーキーレコードを更新した。

注目のマッチアップはタイタンズのセカンダリーとスミスのパスか。タイタンズSケビン・バイアードはリーグトップタイの8インターセプトをマークした。被インターセプトの少ないスミスに対し、これまで温存してきたロングパスをあえて狙うか、またはDTジャレル・ケイシーらのパスラッシュとのコンビネーションでミスを誘うか。タイタンズLBウェズリー・ウッドヤードとハントのせめぎ合いも楽しみだ。

この2チームのポストシーズンでの対戦は過去に2度あり、いずれもチーフスが勝っている。


ファルコンズ(10勝6敗)@ラムズ(11勝5敗)


昨年のNFC王者ファルコンズが、シーホークスから地区優勝を奪ったラムズと対戦する。今季のファルコンズは昨年ほどではないにしろやはりオフェンス主導のチームだ。QBマット・ライアンからWRフリオ・ジョーンズ、モハメド・サヌーへのパス、そこに絡むRBデボンテ・フリーマンのランがファルコンズオフェンスの中心だ。

一方のラムズは2年目QBジャレッド・ゴフの成長にRBトッド・ガーリーの復調がうまくかみ合ったことも手伝い、今季はリーグ最多の1試合平均29.9得点を誇った。ガーリーはスクリメージヤードでNFLトップの2,093ヤードを記録し、タッチダウンも19と量産した。

両チームのポテンシャルが十分に発揮されれば高得点なシュートアウトの展開が期待できる。ただし、今季のファルコンズはレッドゾーンへのドライブがフィールドゴールで終わることが多く、効率よくタッチダウンをあげるという点ではラムズが有利だ。

ディフェンスではファルコンズがSキアヌ・ニール、CBロバート・アルフォードなどセカンダリーにプレーメーカーが多いのに対し、ラムズはDTアーロン・ドナルド、LBアレク・オグレトリーなどフロント7が強い。またスペシャルチームでもプロボウルにKRファロー・クーパー、Pジョニー・ヘッカー、Kグレッグ・ズーラインが選ばれるなどラムズにタレントが揃う。

ファルコンズに有利な点があるとすれば昨年もプレーオフに出場しているという経験値だ。負けたら終わりのトーナメント戦のプレッシャーを経験し、プレーオフ独特の戦い方を知っているメンバーが多いことは大きなアドバンテージだ。

過去のプレーオフでの対戦は1勝1敗。


ビルズ(9勝7敗)@ジャガーズ(10勝6敗)


ともにプレーオフは久しぶりの登場だ。ビルズは今世紀に入ってから初めて、ジャガーズは2007年以来10年ぶりである。過去にプレーオフで1度だけ対戦している両雄の対決(ジャガーズ勝利)はジャガーズのダグ・マローンHCを巡る因縁の対決でもある。

マローンは2013年にビルズのヘッドコーチ(HC)に就任し、2年目で9勝7敗の成績を収めた。しかし、ラルフ・ウィルソン前オーナーの死去に伴うオーナーシップ交代の混乱を嫌い、契約途中で辞任してしまった。ビルズにとっては久しぶりのポストシーズンゲームがチームを見捨てたHCとの顔合わせとなった形だ。

ビルズはRBルショーン・マッコイが中心のチームだが、そのマッコイが最終週のドルフィンズ戦で右足首を故障した。レントゲン検査の結果骨に異常は見られなかったものの、カートで運び出されるほどだったため、ジャガーズ戦に間に合うかどうかは不明だ。今季のマッコイはチーム最多の1,586スクリメージヤードを稼いだ。これはビルズの総獲得距離の33%にあたるそうだ。これだけのプレーメーカーが欠場しては本来の力が発揮できない恐れがある。

ジャガーズにも不安材料はある。終盤に2連敗してプレーオフに突入することだ。とくにタイタンズとの最終戦ではQBブレイク・ボートルズの2回のインターセプトを含み計4つのターンオーバーを犯し、自滅した。この試合の勝敗はジャガーズのプレーオフにおけるシード順位には全く影響を及ぼさなかったが、レギュラーメンバーを投入してのこの内容は感心できない。2004年シーズン以来となるホーム開催のプレーオフゲームという雰囲気が嫌なムードを吹き飛ばせるか。

ジャガーズはディフェンスでのタッチダウンが7と多いことも特徴だ。55サックと21インターセプトはともにリーグ2位の高水準だ。一方のビルズは許したタッチダウンパスが14とこれもリーグ2位の成績。ディフェンスでのビッグプレーが勝敗を分けることになりそうだ。


パンサーズ(11勝5敗)@セインツ(11勝5敗)


ワイルドカードプレーオフでは唯一のディビジョンゲームだ。今季はセインツの2戦2勝。プレーオフでは初めての対戦である。パンサーズは2年ぶり、セインツは4季ぶりのポストシーズンだ。

この試合はいろんな視点からのマッチアップが可能だ。まずはQB対決。パンサーズのキャム・ニュートンが投げて良し、走って良しのQBであるのに対し、セインツのドリュー・ブリーズは典型的なポケットパサーだ。両者とも運動能力は抜群に高いが、それを発揮する方法に違いがある。それぞれに自分の得意なスタイルでゲームを作り上げるだけの実力はあり、タイプは違えど見ごたえのあるクオーターバッキングが期待できる。

パンサーズのLBルーク・キークリー対セインツのRBタンデム、マーク・イングラムと新人アルビン・カマラの対決も楽しみだ。キークリーは今や押しも押されもせぬリーグトップクラスのLBだ。6年連続で100回以上のタックルを記録しており、その守備範囲は広い。それに対し、今季は比重の増したラン攻撃を支えるイングラム(パワー)とカマラ(スピード)のコンビネーションがどう攻略するのか。

セインツの新人CBマーション・ラティモアとパンサーズのWRデビン・ファンチェス、TEグレッグ・オルセンが織りなす空中戦の攻防も勝敗を分ける大きなカギとなるだろう。

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いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。