コラム

“真打ち”登場のディビジョナルプレーオフ、波乱はあるか?

2018年01月12日(金) 14:12

ミネソタ・バイキングス【AP Photo/Darron Cummings】

第52回スーパーボウル特集 > ディビジョナル見どころ

プレーオフのオープニングウイークであるワイルドカードラウンドはAFC、NFCともに一つずつ地区優勝チームが敗退する波乱があった。なかでも10季ぶりのポストシーズン登場となったタイタンズは最大18点差をひっくり返してチーフスを破っている。アウェーのチームがこれだけの点差を逆転するのは1957年のライオンズに次ぐ2例目だという。

NFCでただひとつの連続プレーオフ出場のファルコンズはその経験値を生かし、ミスを連発したラムズを一蹴。NFC王座防衛に一歩踏み出した。

ディビジョナルプレーオフはいよいよトップ2シードチームが登場する。最大の利点は1週間の休養でコンディションが整っていることと、地元で試合を開催できることだ。逆に勝ち上がり組にはすでに1勝をあげた自信と勢いがある。カンファレンス準決勝に相当するこのラウンドではどんな戦いが展開されるのか。


ファルコンズ(11勝6敗)@イーグルス(13勝3敗)


下馬評ではファルコンズ有利の予想だ。第1シードチームがディビジョナルプレーオフでアンダードッグとなるのは史上初めてということだ。その最大の原因はカーソン・ウェンツがACL断裂で今季絶望となってからのイーグルスのオフェンス力の低下だ。

代わって先発クオーターバック(QB)となったニック・フォールズは第15週のジャイアンツ戦こそ4タッチダウンパスの活躍を見せたが、翌週のレイダース戦ではパスが不調でオフェンスドライブを継続することができなかった。最終週は第1クオーターしかプレーしなかったため、約3週間のブランクがどう影響するか。

ただ、ファルコンズもオフェンスが好調とは言えない。レッドゾーンに入ってからの決定力にかけ、フィールドゴールに終わるドライブが多い。シーズン中からの課題がプレーオフでも続いている。ランオフェンスは改善の兆しがみられるが、マット・ライアンからワイドレシーバー(WR)フリオ・ジョーンズ、モハメッド・サヌーのパスは昨年ほどの爆発力を持たない。

お互いのオフェンスが振るわない中、カギを握るのはディフェンスかも知れない。リーグ1位のランディフェンスを誇るイーグルスは早いダウンでのデボンテ・フリーマンのランを確実に止めることでサードダウンロングの場面を多く作ってライアンにプレッシャーをかけたい。テイクアウェーの多い点も期待だ。一方のファルコンズはラインバッカー(LB)ビック・ビーズリー、新人LBタッカリスト・マッキンリーのパスラッシュでポケットパサーのフォールズのパスを封じたい。


タイタンズ(10勝7敗)@ペイトリオッツ(13勝3敗)


自称「プレーオフ出場チームで最も泥臭い戦い方をする」タイタンズがスーパーボウル王者に挑戦だ。最終週にやっとプレーオフ出場を決めたように、ワイルドカードのチーフス戦も大量リードされる展開から、もがきにもがいて最終クオーターで逆転勝ちした。すでに13点差をつけられての不利が予想されているが、それもまたブルーカラーな戦いを信条とするタイタンズらしいのかもしれない。

QBマーカス・マリオタの脚の故障が癒えてきたため、随所で見せるオプションプレーが効果的だ。新人ランニングバック(RB)デリック・ヘンリーもロングランを連発するようになり、デマルコ・マレーに代わるエースとしての座を着々と固めつつある。ディフェンスはディック・ルボウ守備コーディネイターのデザインするゾーンブリッツが威力を発揮する。意外なところからくるブリッツはトム・ブレイディが苦手とするパスラッシュだ。ブレイディにパスのリズムを構築させなければ勝機は見えてくる。

しかし、パントリターナー(PR)アドリー・ジャクソンのマフ(結果的に相手のフィールドゴール失敗で大事に至らず)やパスドロップなどチーフス戦で見せたミスは極力避けたい。ペイトリオッツはこうした付け入る隙を決して逃さない。

ペイトリオッツにはブレイディはもちろん、タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキー、RBディオン・ルイスら主力が故障なく出場できるのが心強い。バイウイークの間にビル・ベリチックHCとロバート・クラフトオーナー、ブレイディの確執を伝える記事が出てちょっとした騒動となったが、逆境に強いペイトリオッツのことだ。影響はないだろう。

ペイトリオッツは2010年を最後にディビジョナルプレーオフでは敗れていない。6年連続AFC決勝に出場中だ。


ジャガーズ(11勝6敗)@スティーラーズ(13勝3敗)


スティーラーズにとってはリベンジマッチだ。第5週の対戦では今回と同じハインツフィールドでの試合にもかかわらず、ベン・ロスリスバーガーが2つのリターンタッチダウンを含む5インターセプトを浴びて惨敗。限界説まで飛び出した。

また、両チームの間で過去1度だけ行われたプレーオフでの対戦はジャガーズの勝利。通算成績も11勝13敗と、目の上のコブのような存在なのだ。

勝敗を分ける要因となるのはいかにQBを守るかだろう。スティーラーズはリーグトップの56サック、ジャガーズはそれに次ぐ55サックをシーズン中にマークした。スティーラーズは安定したオフェンスラインのプロテクションで、ジャガーズは新人RBレオナード・フォーネットのランをカウンターパンチとして使うことで相手のパスラッシュからQBを守りたい。

ボートルズはワイルドカードのビルズ戦で自己最多の88ヤードを走るなど新たな一面を見せた。ボートルズのラン(スクランブルを含む)をゲームプランとして組み込むならオフェンスの威力は増すことになる。

スティーラーズはふくらはぎを痛めていたWRアントニオ・ブラウンが復帰する。


セインツ(12勝5敗)@バイキングス(13勝3敗)


ディビジョナルプレーオフ最高のカードだ。第1週の再戦であるが、その時の結果(バイキングスが勝利)はあてにはならない。両チームとも当時とは比べ物にならないくらいに攻守が成長し、バランスがとれている。最後までわからない接戦になる可能性がある。

開幕時に3番手QBだったケース・キーナムがここまでバイキングスオフェンスを牽引すると誰が予想しただろうか。強肩から繰り出すロングパスがアダム・シーレン、ステフォン・ディッグスに面白いように決まる。ディフェンスは総合と失点でリーグ1位の成績だ。とくにディフェンシブエンド(DE)エバーソン・グリフィンは自己最多の13サックを記録するなど好調。ドリュー・ブリーズのクイックスローとの興味深いマッチアップが成立する。

今季のセインツの好調はランとのバランスがとれたオフェンスにある。パス偏重だったオフェンスがマーク・イングラム、新人アルビン・カマラのランを織り交ぜることで相乗効果を生むようになった。皮肉にもラン強化のために獲得したエイドリアン・ピーターソンをトレードで放出した頃からランが急速に改善した。

もちろんイングラムもカマラもパスキャッチでも貢献でき、セインツオフェンスはあらたな境地を見出した。長年の課題であったディフェンスも新人コーナーバック(CB)マーション・ラティモア、DEキャメロン・ジョーダンらが底上げする形で改善を見せる。激戦区のサウスを制した勢いもあり、「波乱」を起こす可能性は十分にある。

バイキングスは史上初のホームスタジアムでのスーパーボウル出場まであと2勝。NFL有数のクラウドノイズが後押しする。

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いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。