活発化する学習支援の取り組み
2018年07月02日(月) 04:57カウボーイズが6月18日から29日の日程で高校生を対象としたスポーツビジネス学習プログラムを初めて実施した。これはスタンフォード大学やノースウェスタン大学などの大学でスポーツビジネスを学ぶプログラムを運営しているデリック・ヒガンズ氏とカウボーイズが昨年12月に契約を結んだことによるもの。
テキサス州フリスコにあるカウボーイズの本部施設を会場に20名限定で生徒が集められた。チームの役員やNFLのスポンサーシップとパートナーシップ部門副社長などが講師となり、スポーツビジネスに関する講義が行われたとのことだ。開催費用は生徒1人あたり4,000ドル(約44万円)に上っている。
カウボーイズとしては優秀な生徒をインターンとして採用することを目標に掲げている。ヒガンズ氏は「これは将来性のある才能を手に入れる機会となります」とコメントした。
ヒガンズ氏はこの夏、ロサンゼルスのロヨラ・メリーマウント大学でやはり高校生を対象に、元チーフスのトニー・ゴンザレス氏などが登壇する2週間にわたる同様の学習プログラムを開催する予定だ。
ヒガンズ氏がこのような学習プログラムでチームと契約したのはカウボーイズが最初だが、すでにシーホークスとイーグルスとも契約しており、来年には開催予定だという。将来的にはNFL10チーム、NBA10チーム程度にまで増やしたいとしている。
高校生対象のスポーツビジネス学習という点では今回が初めてのケースだったが、NFLのチームが学生を対象にした学習への取り組みはこれが初めてではない。特に近年ではSTEMへの取り組みは流行といっていいほどになっている。
STEMとは科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学の頭文字を集めたもので、これらの教育分野を指す。STEMにアートを加えSTEAMと呼ばれることも多い。アメリカではハイテクやIT産業が拡大しているにもかかわらず、そうした職種への適格者が不足しているという懸念が背景にある。いわゆる理系離れがアメリカ社会を苦しめつつあるのだ。そこで初等教育の段階から科学やテクノロジーに触れてもらい、将来そうした分野に進んでもらおうとさまざまな施策がとられている。
そんなSTEMと相性がいいのがスポーツ、そしてNFLだ。スポーツの仕組みなどを使った科学実験ショーや物理実験などで関心を高めようというのである。
NFLの中でもSTEMに特に熱心に取り組んでいるのが49ersだ。49ersの本拠地リーバイス・スタジアムがシリコンバレーの中心に立地することも背景にあり、2014年からさまざまなSTEMプログラムを展開してきた。
2016年には無料オンライン学習プラットフォームを展開するカーンアカデミーと提携。同アカデミーのサイト内に設けられた49ersのハブでは49ersの選手による「ボールを投げる時にスパイラルをかけて投げることがなぜ良いのか?」との質問にカーンアカデミーの創設者兼CEOが答える、といった内容のビデオが掲載され、自由に閲覧できるようになっている。
昨年には、チームが運営する49ers財団と米自動車ブランドのシェブロン、大手携帯電話会社ベライゾン社などと組み、STEM教育とそのビジネス機会の開発に向けた契約を結んだ。
さらに今年5月には14歳から16歳の学生47人が参加して、それぞれにビジネスプランを出し合って競う、ハッカソンを49ers財団がリーバイス・スタジアムで開催している。
このようなSTEMプログラムに関してはレイブンズやイーグルスなど多くチームが行っている。
子供達の学習を支援し、将来の人税育成につなげることは同時にチームの新たなファンを作ることにもつながる。そうしたことからもこのような取り組みはNFL全体にとって非常に重要なものとなっているのだ。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。