コラム

バッカニアーズQBジェイミス・ウィンストンの出場停止処分の影響

2018年07月01日(日) 06:15

タンパベイ・バッカニアーズのジェイミス・ウィンストン【AP Photo/Stephen B. Morton】

今季4年目を迎えるバッカニアーズのクオーターバック(QB)ジェイミス・ウィンストンが開幕から3試合の出場停止処分を受けた。

ウィンストンは2016年に自動車配車サービス業『Uber(ウーバー)』の女性ドライバーにセクハラ行為をした疑いがかけられている。ウーバー社は女性ドライバーの訴えを受けてウィンストンの同社のサービス利用を禁じているが、刑事事件にはなっておらず、ウィンストンも行為を認めていない。

しかし、NFLは昨年11月に事件が明るみに出てから調査を進め、出場停止処分が妥当と判断。現地28日(木)、NFLはリーグの行動規範に違反したとして2018年シーズン序盤3試合の出場停止処分を言い渡している。

バッカニアーズは昨シーズンの開幕前には期待がかかったチームのひとつだった。オフェンスにウィンストンをはじめ、ランニングバック(RB)ダグ・マーティン(現レイダース)やワイドレシーバー(WR)マイク・エバンス、デショーン・ジャクソンらのプレーメーカーがそろい、ディフェンスも2016年シーズンに大きな改善を見せたからだ。2007年以来のプレーオフ出場も可能性大との前評判だった。

ところが、序盤こそ2勝1敗のスタートを切ったものの、以降は13試合で10試合に敗れるという不調で10年連続でプレーオフを逃している。NFC南地区では復活したセインツ、2年連続でプレーオフ出場のファルコンズ、安定した実力を持つパンサーズとは裏腹に戦力が大きく後退したシーズンだった。

期待を裏切ったにもかかわらず、オーナーのグレイザー一家はヘッドコーチ(HC)ダーク・カッターの留任を決めた。第一の理由はオフェンスマインドの指導者であるカッターが継続してウィンストンの成長を助けられると考えたためだ。そこにきて序盤のウィンストン出場停止は挽回を目指すチームに冷や水をかける行為に等しい。

ウィンストン欠場の間はライアン・フィッツパトリックが先発QBを務めることになる。フィッツパトリックは肩が強く、先発経験も豊富だ。その意味ではレベルの高いWR陣やキャメロン・ブレイト、O.J.ハワードといったタイトエンド(TE)の能力を引き出すことは可能だ。だが、フィッツパトリックは好不調の波が大きく、インターセプトも多い。この点で自らの責任によるターンオーバーの多いウィンストンと大差ない。ちなみにウィンストンは昨季13試合で11個の被インターセプトに加え、7回のファンブルロストを喫している。

何よりもカッターHCはフィッツパトリック(またはライアン・グリフィン)を開幕先発として準備させつつ、ウィンストンも出場停止処分明けからスターターとして活躍できるように用意しなければならない。せっかくオフェンスにタレントが揃っているのに、キャンプでの練習時間とプレシーズンゲームでの出場機会を複数のQBに割かざるを得ないのは非効率的だ。

さらに悪いことにバッカニアーズの序盤戦にはセインツ、イーグルス、スティーラーズら強豪との試合が組まれている。セインツは言うまでもなくディビジョンライバルであり、イーグルスも同じNFCでプレーオフ枠やポストシーズンのシード順位を争う相手になるかもしれない。序盤とはいえ重要な対戦相手なのだ。

ウィンストンの素行問題はこれだけではない。学生時代には万引きや婦女暴行の嫌疑がかかった。今回のセクハラ疑惑で女性ファンが離れる懸念も否定できない。度重なる不祥事によって形成されたダーティーなイメージはなかなか払拭(ふっしょく)できないものだ。それによるファン減少はチームにとって看過できる問題ではない。

ウィンストンの素行問題はNFL入り前から懸念されていた。出場停止処分はそれを現実化するものだ。バッカニアーズの序盤のスタートだけでなく、長期的なチーム人気においても彼の出場停止処分が及ぼす影響は大きい。この汚名をそそぐのは復帰後の更生に向けた姿勢と自身の活躍でバッカニアーズをプレーオフに導くことしかない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。