3年ぶりのQB安定、ブロンコスが享受するアドバンテージ
2018年06月24日(日) 02:43NFLでは各チームともOTA(チーム全体練習)やミニキャンプを終え、完全休養の時期に入る。これから7月中旬のキャンプインまでがNFL関係者のつかの間のサマーバケーションだ。
今季はベテランクオーターバック(QB)の移籍が相次いだ。チーフスがアレックス・スミスをレッドスキンズにトレードしたことをきっかけに玉突き人事が巻き起こった。前レッドスキンズのカーク・カズンズがバイキングスへ、バイキングスのケイス・キーナムがブロンコスに移籍した。
それぞれが新天地で先発QBとなる予定だが、その恩恵を最も受けているのはブロンコスだろう。ペイトン・マニングの最後のシーズンでスーパーボウルを制覇した2015年以降、初めてQBの先発争いの必要がないオフシーズンを迎えたからだ。
過去2年はいずれも先発QBを決めるためにオフシーズンを使わなければならなかった。特に昨年はバンス・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)就任と重なったために攻守で新たな戦術を導入する必要があり、QBの定まらないオフェンスは後手に回った。その影響はシーズン中に顕著に表れた。前攻撃コーディネイターのマイク・マッコイはパッシングアタックとスプレッドフォーメーションにこだわったが、トレバー・シミアン、パックストン・リンチ、出戻りのブロック・オズワイラーらはいずれもこのスタイルを使いこなせなかった。
ジョセフはシーズン途中にマッコイを解任してビル・マスグレイブにオフェンスを委ねたものの、それでもチームは5勝11敗に終わっている。オフにはマスグレイブこそ留任したが、ワイドレシーバー(WR)コーチのタイク・トルバート、オフェンスライン(OL)コーチのジェフ・デビッドソン、ランニングバック(RB)コーチのエリック・ステューデスビルが職を追われた。オフェンスは再構築を余儀なくされたのだ。
こういう状況下で少なくとも先発QBがキーナムで確定していることはブロンコスに有利だ。マスグレイブはパッシングアタック構築が得意なコーチで、キーナムの強肩を存分に生かすゲームプランを構築できる。もし、今年もQBのポジション争いが展開されたなら、QBの特性を見極めてから戦術を組み立てなければならず、過去2年と同様にオフェンス構築が大幅に遅れることになっていたはずだ。
すでにブロンコスはオフのトレーニングセッションを通じて新たなオフェンススキームを導入しており、その意味では昨年よりも2カ月ないし3カ月はスケジュールが前倒しにできる。トレーニングキャンプは全日程をオフェンスの新スキームのブラッシュアップに使えるのだ。これは大きい。
ディフェンスは今年のドラフトでパスラッシュの名手との評判が高いディフェンシブエンド(DE)ブラッドリー・チャブ(ノースカロライナ州立大学)を指名した。ボン・ミラーとのコンビネーションでNFL屈指のパスラッシュが誕生するとの期待がある。3シーズン前のリーグ制覇の原動力となったディフェンスは健在で、オフェンスの出来次第でスーパーボウル候補となる可能性もある。
それだけにキーナムを先発としてオフェンスを早期に構築できる状況は歓迎だ。AFCのなかでも競争が激化することが予想される西地区で、オフェンスの不安を払しょくできればブロンコスが存在感を示すことになるかもしれない。2年間の雌伏の時を経てブロンコスが復活を遂げようとしている。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。