コラム

回復を見せるNFLテレビ中継

2018年12月02日(日) 09:41

シアトル・シーホークスのクリス・カーソン【AP Photo/Elaine Thompson】

アメリカでのNFLテレビ中継にファンが戻ってきたようだ。

NFLの絶大な人気はテレビが支えてきたといって過言ではない。そしてその人気ゆえ放映権を持つNBC、CBS、FOX、ESPNの4つのネットワークは2022年まで毎年合計で50億ドルもの放映権料を支払う契約をNFLと結んでいる。これはNFLにとっても総収益の3分の1以上を占めるものであり、まさに持ちつ持たれつで人気とビジネスを拡大してきたのだ。

そんなテレビ中継に陰りが見えたのが2016年だった。平均視聴者数が1,650万人と、前年より8%減少したのである。続く2017年は平均視聴者数が1,490万人とさらに10%近く減ってしまった。

その原因についてはさまざまな議論を生んできた。3時間を超える試合時間が現代では長すぎるという意見に対して、NFLは昨シーズンからビデオ判定をそれまでのブースからサイドラインのタブレット端末で行うように変更したり、ネットワークも中継内でのCM枠の削減や6秒という短尺のCMを放送するなどの短縮策を講じたりしたが、減少は続いた。

さらに大きな要因と言われたのが当時49ersのクオーターバックだったコリン・キャパニックが2016年に始め、その後、多くの選手に広がった人種差別への抗議として試合前の国歌斉唱時に起立せずひざまずく選手の行動だった。これに嫌気がさしたファンが中継を見なくなったというのである。これについては昨年トランプ大統領がNFLを批判し、大きな社会問題へと発展した。

その一方でテレビ全体としてはNFL中継の人気は依然抜きんでており、広告主が中継内でCMを放送してもらうために支払う放映権料は高止まりが続いていた。

そして今シーズン、調査会社ニールセンによればシーズン第11週までで平均視聴者数は1,510万人を記録、昨シーズンよりも3%増となっている。11月19日に行われたマンデーナイトフットボール(MNF)のチーフス対ラムズは1,660万人を記録した。これは過去4年のMNFで最も多い数字だ。

また今シーズン、好調さが目立つのがサーズデーナイトフットボール(TNF)である。TNFはNFL傘下のNFL専門局、NFLネットワークが全試合の放映権を持ち、うち11試合に関してはFOXが地上波での放映権を、さらにアマゾンがアマゾン・プライムとTwitchでのライブストリーミング権を持っている。ニールセンによれば第11週のシーホークス対パッカーズのFOXとNFLネットワークによるテレビ中継の合計視聴者数は1,690万人で、これは昨シーズン同週のタイタンズ対スティーラーズの1,350万人より22%も増えているのだ。

さらにこの試合のアマゾンとTwitchによるストリーミングを見た視聴者数は全世界で240万人に達し、これは昨季第11週の210万人を大きく上回っている。こうした昨シーズン以上の数字をたたきだす試合がTNFで続出しているのだ。

TNFでは両チームがチームカラーの1色を強調した特別ユニフォームを着てプレーする“カラーラッシュ“といった演出が行われてきたものの、昨シーズンまでは今ひとつ盛り上がりに欠けることが多かった。それがこの躍進につながっているのは、今シーズンは有力チームや人気チームの対戦カードが多いことも要因だろう。

こうしたテレビ人気の復活もあってCMについて調査しているiSpot.tvによれば第11週までの全米テレビ広告収入は昨年同期の22億7,000万ドルから5%増の23億9,000万ドルにまで増えた模様だ。

驚異的なV時回復を見せているNFLテレビ中継に放送、広告など関係業界は喜びの声が出ているものの、その真価を図りかねる関係者も多い。平均視聴者数に関しても第8週までは昨シーズンとほぼ同じで推移していたのが第9週以降に増えたという経緯もある。さらに昨シーズンまでの視聴者減と今シーズンの増加の真の要因は解き明かされていないままだ。

今後プレーオフに向けて熱戦が増えれば今後も回復基調が続くと思うが、不安は残り続けている。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。