パッカーズに異変? 相次ぐコーチ解任
2018年12月09日(日) 04:32グリーンベイ・パッカーズのヘッドコーチ(HC)解任には正直驚いた。
昨季は9年ぶりに7勝9敗と負け越し、プレーオフを逃した。今季も4勝7敗1分でNFC北地区首位のベアーズ(8勝4敗)に大きく差をつけられており、プレーオフ出場は難しい状況だ。
しかし、現在のパッカーズオフェンスを構築した功労者であり、スーパーボウル優勝経験もあるマイク・マッカーシーをシーズン途中にクビにするのは予想外だった。チームが不振であろうと残り4週を全うさせ、その結果を受けて進退を決めるものだと思っていた。
その2日後にはアソシエートHC兼ラインバッカー(LB)コーチだったウィンストン・モスも解雇されている。モスはマッカーシーとともに2006年にパッカーズに入団し、以降、マッカーシーの片腕として仕えてきた。モスはマッカーシー解任直後にソーシャルメディアでチーム批判とも受け取れる内容を投稿しており、これがチームを追われる直接の理由となったようだ。
成績不振とチーム批判は解雇の十分な理由になる。しかし、事態はそれほど単純でもないようで、さまざまな情報を総合するといくつかのチーム内不協和音が浮き彫りになる。
まず、マッカーシーとクオーターバック(QB)アーロン・ロジャースに確執があったといわれる。ロジャースはマッカーシーがHC就任直後に主宰した“QBスクール”の熱心な受講生で、不参加だったブレット・ファーブをよそ目にマッカーシー流のウエストコーストオフェンスを吸収していった。
先発QBがファーブからロジャースに移行するとマッカーシーが構築するオフェンスをロジャースが実行し、NFLでも1位、2位を争うハイスコアリングなオフェンスを完成させたのだ。
ところが近年はこの2人の間に溝ができたとの報道もある。クリエイティブなオフェンスを展開したいマッカーシーに対してシンプルなゲームプランで自分の能力を生かしたプレーをしたいロジャースの間で意見が食い違い、マッカーシーの指示したプレーをロジャースが勝手に変更する場面も増えたという。
とはいえ、近年のロジャースは故障などがあり、かつてのような身体能力や肩の強さが発揮できない試合が増えてきた。ロジャースが超人的なプレーができない以上、ゲームプランがシンプルなパッカーズオフェンスは容易に相手ディフェンスに防がれてしまう。それが昨年から続くオフェンスのスランプの原因のひとつだ。
もう1つチームに暗い影を落とす要因はフロントのパワーゲームだ。今回のマッカーシーやモスを解任する決断を下したのはジェネラルマネジャー(GM)ブライアン・グーテクンストではなくマーク・マーフィー球団社長だったという情報もある。本来ならコーチ人事はGMの職権である。そこのマーフィー社長が権限を行使したとするならばグーテクンストは面白くないに違いない。
グーテクンストは今年8月に新GMに就任した。パッカーズで過ごした年月は長く、前GMテッド・トンプソン(現シニアアドバイザー)の下で人事畑を歩んできた。絶大な権限を持っていたトンプソンの後を継いだグーテクンストは当然自分にもその職責が与えられると思っていた。ところが、実質的な人事権はほとんどがマーフィーに帰属する。そのためグーテクンストは就任時にHC選任の権限が自分ではなくマーフィーにあることに不快感を示すコメントを述べて物議をかもしたこともあった。
マッカーシー解任がマーフィーの意思によるものであるならばいよいよグーテクンストはメンツをつぶされたことになる。今季終了後に始まる新HC探しでもパワーゲームが展開する可能性は否定できない。
今年のパッカーズはワイドレシーバー(WR)ジョーディ・ネルソンのリリース、セーフティ(S)ハハ・クリントンディックスとランニングバック(RB)タイ・モンゴメリーのトレードなど主力選手の放出があった。特にシーズン中のトレードなどはトンプソン時代にはほとんど考えられなかった。この辺りもチームの人事方針の違いが見て取れる。それが今後のチームづくりにどう影響するのか。マッカーシーの移籍先がどうなるかとともに興味深い動向だ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。