コラム

ドラフト開催から見えるNFLとカジノの急接近

2019年01月02日(水) 08:14


2018年NFLドラフト【AP Photo/David J. Phillip】

2020年NFLドラフトがネバダ州ラスベガスで開催されることが発表された。このことはNFLとラスベガス、カジノ産業の急接近を改めて示したものといえる。

毎年春に開催されるドラフトは2015年にそれまで50年間にわたって開催地を務めたニューヨークから、開催を希望して選ばれた都市で行われるようになり、年々その人気と規模が拡大している。2018年4月26日から28日まで行われた2018年ドラフトはカウボーイズの本拠地AT&Tスタジアムが舞台だった。1巡指名日だった26日にはドラフト会場と体験型テーマーパークのNFLドラフト・エクスペリエンスに史上最多の10万人以上が集まり、3日間合計でも20万人以上を記録している。3日間で直接的消費は7,400万ドル(約81億1,000万円)に達し、全体での経済効果は1億2,520万ドル(約137億2,100万円)に上るとされたほどだ。これはフィラデルフィアで開催された前回、2017年ドラフトの9,500万ドル(約104億1,100万円)を大きく上回る。

大きな収益が見込める人気イベントだけに開催をめぐる競争も激しくなっている。例えば再開発を進めているオハイオ州カントンのプロフットボールの殿堂は近年ドラフト招致活動を続けているものの、まだ開催権を手にできていない。その中で、2020年春の時点でまだ新スタジアムで試合が行われていないラスベガスが選ばれたのである。

それだけに開催権を獲得したラスベガス・コンベンション・アンド・ビジターズ局のスティーブ・ヒルCEOは「この特別なイベントに選ばれたことに興奮しています。ドラフトでNFLと世界に本当のラスベガス体験をお目にかけることが待ちきれません」と喜びの声明を発行した。また、同年にラスベガスに移転するレイダースのオーナー、マーク・デービス氏も「レイダースはラスベガスに非常に興奮しており、2020年NFLドラフトの開催を支援できることを誇りに思います。ラスベガスは世界のエンターテインメントの中心地であり、NFLとそのファンにとって素晴らしい経験を提供するでしょう」と意気込みを語っている。

NFLを初めとする4大プロリーグはスポーツ賭博が合法的に行われ、八百長などの懸念から長年ラスベガスと距離を置いてきた。ただ、IR(統合型リゾート)の発展でラスベガスは近年急成長を続けており、各リーグもその規模と成長性を見逃すことができず、参入を図る流れが生まれたのである。

最初の雪解けはプロアイスホッケーNHLが2016年にラスベガスに新チームを設立することを決定し、2017年にベガス・ゴールデンナイツが発足したことだった。そして、それに続いたのがNFLで、2017年3月にオーナーらがレイダースのラスベガス移転を承認したのである。

そして両者の接近を大きく加速させることとなったのが、2018年5月に連邦最高裁判所がスポーツを対象とした賭博の解禁を認める判断を下したことだった。これによりラスベガスに限らず、どの州でも州政府と議会が承認すればスポーツ賭博を合法的に実施できるようになったのである。すでにニュージャージー州など複数の州でスポーツ賭博が展開されている。

これに対し、最初に動いたのはカウボーイズで、9月にオクラホマ州に本拠を置くカジノ事業者、ウィンスター・ワールド・カジノ・アンド・リゾートと公式スポンサー契約を結んだ。さらにレイブンズ、ジェッツ、セインツもカジノと契約している。

さらにレイダースは11月、現在建設中の新スタジアムの初のパートナーシップ契約を大手カジノ業者、シーザーズ・エンターテインメントと結んだことも発表していた。

まさにカジノ業者、ラスベガスとの提携ラッシュのなかでのドラフト開催決定はその蜜月状態が現れたものといえそうだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。