コラム

ジェッツLBコープランドはオフフィールドのスター選手

2019年04月08日(月) 09:34

ニューヨーク・ジェッツのチアリーダー【AP Photo/Seth Wenig】

ジェッツのラインバッカー(LB)ブランドン・コープランドは昨シーズン全16試合に出場し、24タックル、5サックを挙げる活躍を見せたが、決してスター選手と呼べる存在ではない。しかし、オフフィールド、特にビジネスと財務においてはトップ選手の一人といえそうだ。

コープランドは家の売買経験が豊富で、妻と共に不動産会社を経営しているだけでなく、母校のペンシルバニア大学でブライアン・ピーターソン教授と共に「ライフ101」と名付けられた財務管理能力のクラスで授業を行っている。

コープランドは大学時代の夏休みに2回、投資銀行のUBSでインターンを経験、2013年のドラフトで指名されず、レイブンズやタイタンズを経た後、2015年にライオンズで出場機会を得た。しかし、2017年は胸筋の断裂で全休を余儀なくされた。ただ、オフシーズンにはウォール街の投資アドバイス会社で遠隔勤務しビジネス感覚を磨いたという。そのうえで、1年契約で入団したジェッツで先発の座を勝ち取ったのである。

選手年俸などを調査しているSpotracによればコープランドの2018年の年俸は120万ドル。しかし、その年俸のほとんどを使っていないことを明かしている。

そんなビジネス感覚に優れたコープランドの信条はシンプルだ。それは「支出を全て追跡すること」。「1ドル使うごとに考える、収入について考えるんじゃない。いくら使っているか考えるんだ。まず全てのドルがどこに行くかを調べるんだ」と語る。外食のような任意の支出はもちろん、家賃や住宅ローンのような必要経費まで全てを追跡することが大事だという。その上で収入を保ちつつ、支出を可能な限り削減することを考えるとしている。実はコープランドと同じようなアドバイスを送る財務の専門家も多い。

NFLの選手というと金銭感覚に乏しい人物が多く、引退した選手の8割が自己破産していたという調査結果が発表されたこともあった。もちろんビジネスで大成功した元選手もいたが。

コープランドを筆頭に時代は変わりつつあるのかもしれない。引退を発表したペイトリオッツのタイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーは飛び抜けたプレーだけでなく、オフフィールドでもプロレスへの出場や映画への出演、パーティー好きと派手な存在であり続けた。9年間のNFLキャリアで受け取った合計5,400万ドルの年俸のほとんどに手をつけなかったとも報じられている。グロンコウスキーもコープランドと同じく、節約に努めていたのだとか。

さらにレイダースのランニングバック(RB)マーショーン・リンチやジャイアンツのランニングバック(RB)セイクワン・バークリーもNFLの年俸を使っていないことで知られている。NFLのキャリアは決して長くないことを見据え、将来に備える選手が増えているのかもしれない。

以前の調査が衝撃的だっただけにこうした流れが続くことに期待したいところだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。