コラム

AAFはどこで道を誤ったのか

2019年04月08日(月) 09:24


フィールドに置かれたフットボール【Aaron Doster via AP】

スーパーボウル開催から1週間後に誕生した新リーグ、アライアンス・オブ・アメリカンフットボール(AAF)が突如のリーグ活動停止を発表した。リーグオーナーのトム・ダンドン氏の独断によるものとみられている。

AAFは10週を予定していたレギュラーシーズンを8週まで終えていた。寄稿段階で分かっているのは第9週がキャンセル、第10週に向けては「開催の可能性を模索している」という状況のみだ。レギュラーシーズン後のプレーオフについては開催の有無を含めて白紙である。

選手、コーチ、関係者には4月2日付の一斉メールによって通達された。ところがそのメールにはリーグが活動停止する理由については一切述べられていないという。第一の理由として資金繰りの悪化が予想されるが、リーグ関係者はこれを否定している。

それでは何が突然の活動停止を招いたのか。

複数の報道を分析すると、どうやらAAFはさまざまな運営上の問題を抱えていたようだ。まず、リーグ発足当初から選手をはじめとする関係者へのサラリーの支払いに支障があった。AAFの選手は一律に総額25万ドルの3年契約をリーグと結ぶ。年俸は1年目が7万ドル、2年目が8万ドルというように上昇する内容となっているが、保証はされない。

その支払いに支障があったのは資金の不足ではなく、リーグが提携していた支払管理会社に問題があったとするESPNの報道もある。この際にNHLカロライナ・ハリケーンズのオーナーでもあるダンドン氏が2億5,000万ドルを出資して窮地を救った。ダンドン氏はこの貢献が認められてか、直後にリーグオーナーに就任している。

その後も運営の不手際は続く。オーランドー・アポロズは保険の問題がこじれたことが理由で練習場の変更を余儀なくされた。それも3時間も離れたジョージア州内の街に移ることになったのだ。

さらにNFLのスーパーボウルにあたる優勝決定戦の試合会場に予定されていたサムボイド・スタジアム(ラスベガス)との契約が正式な文書でかわされていなかったことが発覚し、テキサス州フリスコに変更になるというバタバタもあった。いずれもNFLではおよそ考えられない不手際であり、不祥事である。

またUSAトゥデースポーツはNFLPA(NFL選手協会)の協力が得られなかったことがダンドン氏に活動停止を決意させたと報じている。

AAFはもともとNFLに選手を供給するための組織という役割も持っていた。AAFでプレーする選手をNFLのスカウトが視察し、一人でも多くの選手をNFLに送り出すのが大きな使命の一つだった。だからこそ大々的に公式サイトで紹介されるなどNFLの支持を受けていたのだ。

ダンドン氏はこれを実現するためにNFLのプラクティススクワッド(PS)所属の選手の参加を求めた。PSの選手は身分は基本的にフリーエージェント(FA)である。だからシーズン中でもほかのチームのPS所属選手と自由に契約ができる。ただし、シーズンオフには「フューチャー契約」という育成目的の契約をチームと結ぶPS選手もいる。この場合はFA扱いにならない。

チームの所属である以上NFLとNFLPAの労使協約に縛られる。そして、NFLPAはPS選手のAAF参加を認めなかった。選手が故障するリスクがあるとともに、年間の実働時間を事細かに定めた労使協約に抵触するからだ。

ダンドン氏がリーグの活動停止を決断したのはNFLPAがPS選手の参加を拒んだ直後である。リーグ活動停止の要因として引き金となったと言って過言ではないだろう。

誕生間もないプロリーグには運営の不手際はまま起こりうる。しかし、NFLから支援を受けて鳴り物入りで誕生したプロフットボールリーグとしてはあまりにもお粗末だった。そして、権力がダンドン氏に一極集中したのも独断による活動停止を招いた。

なぜAAFはダンドン氏をコミッショナーや会長ではなく、オーナーとしたのか。NFLにおけるロジャー・グッデルコミッショナーの権限は大きい。しかし、NFLの最高議決機関は32チームのオーナーで編成されるオーナー会議であり、グッデルの独断で重大な決議が行われることはない。ここにもAAF破綻の一因はあった。

NFLには選手を供給し、ファンにはオフにもフットボールを提供するというAAFのコンセプト自体は素晴らしいものだった。しかし、その運営に大きな問題があった。洋の東西を問わず、新興のプロリーグが成功を収めるのは難しい。その例を垣間見た思いだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。