規定改定で選手のビール広告出演解禁
2019年06月17日(月) 07:32NFLは広告に関する規定を改定し、選手がビールの広告に出演することを可能にした。これまでNFLはリーグ、チームがビール企業とスポンサー契約を結び、リーグやチームのロゴを広告に掲出することは認めていたが選手に関しては許していなかった。
今回の改定により、リーグが公式ビールスポンサー契約を結ぶ、アンハイザー・ブッシュ・インベブのビールブランド『Bud Light(バドライト)』はもちろん、チームが契約するビールの広告に選手が出演することができるようになる。
ただ全面解禁というわけではなく、一定の制限が設けられている。まず出演できるのは現役選手のみで、選手はユニフォームの着用が義務づけられる。ストリートファッションなどでの出演は認められない。また選手が製品を勧めるような表現をしてはならない。さらに複数の選手が出演する場合は6人以上でなければならない。印刷での広告の場合、AP通信が保有するプレー中のユニフォーム姿の選手写真を使用するという制限もある。
いわゆる4大プロリーグの中でもNFLは保守的といわれ、以前は広告規定が厳しいことでも知られていた。しかし近年は社会情勢の変化もあって規制緩和に舵を切られている印象だ。2017年に緩和されたのがウイスキーやジンといったアルコール度数の高いハードリカーと呼ばれるアルコール飲料とワインの広告解禁である。1920年に施行された禁酒法の影響が残るアメリカでは、1996年まではテレビでハードリカーのCMを放送することが自粛されていた。ただテレビの解禁後もNFLは禁止を続けていたのである。現在はハードリカーやワインの企業はパッケージやボトルにロゴをつけることが可能となっており、CMも放送できる。
さらに大きかったのが昨年8月に解禁されたカジノの広告掲示である。これは5月に連邦最高裁判所がスポーツを対象とした賭博の解禁を認める判断を下したことを受け、オーナー会議で決定されたもの。9月にカウボーイズがダラスの北オクラホマ州に本拠を置くカジノ事業者、ウィンスター・ワールド・カジノ・アンド・リゾートと公式スポンサー契約を結んだのを皮切りに、レイブンズ、ベアーズ、コルツ、セインツ、レイダース、イーグルスなどが次々とカジノと契約を結んでいる。さらに今年1月にはNFL自体がカジノとIR(統合型リゾート)を運営するシーザーズ・エンターテインメントと公式カジノパートナー契約を結んだ。規制緩和による契約ラッシュといった感じである。
ではこうした動きは何をもたらすだろうか。それは双方にとってのビジネス拡大である。ビール企業は現在クラフトビールやワインの普及によって若者離れに苦しむ、ハードリカーやカジノはそのイメージから広告の場が少なかった。そうした企業にとって絶大な人気を誇るNFL、特に高い視聴率が期待できるテレビ中継での広告掲示は絶好の宣伝機会なのである。
対して、NFL、チーム、選手にとっては収益拡大が見込める。例えば、シーザーズ・エンターテインメントはNFLに対し、年3,000万ドルもの権利料を支払うと見られているのだ。広告の規制緩和の裏にはさらなる成長を目指す大きな意志が見えるのである。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。