コラム

ジョシュ・マッコウンこそ理想のバックアップQB

2019年06月24日(月) 10:59

クリーブランド・ブラウンズでプレーするジョシュ・マッコウン【AP Photo/Ron Schwane】

16年間にわたりNFLで現役生活を続け、10ものチームを渡り歩いたクオーターバック(QB)ジョシュ・マッコウンが引退を発表した。7月4日(木)に40歳の誕生日を迎えるマッコウンは今後、高校生QBの2人の息子のコーチを務める一方で『ESPN』のアナリストとして第2の人生を歩むことになる。

これといった特徴のない選手である。ドリュー・ブリーズのようなピンポイントのパスを投げるでもなく、トム・ブレイディのように勝負強くもない。肩の強さではマシュー・スタッフォードの足元にも及ばない。ラッセル・ウィルソンのような身体能力とも無縁だ。それでも多くのチームに必要とされ、ときにはスターターとして期待以上の活躍を見せることもあった。

没個性であるがゆえに多種多様のオフェンススキームになじむことができ、経験を積むにつれて多くのディフェンススタイルに対応するすべを学んだ。むしろ、特徴のないことが彼のプロ生活が長期にわたった理由だろう。そして、こうした選手こそがバックアップQBには理想的なのだ。

マッコウンも始めからバックアップ要員だったわけではない。2002年に彼をドラフト3巡目で指名したアリゾナ・カーディナルスは先発QBとして活躍してくれることを望んでいたはずだ。残念ながら結果が出ずに2007年にレイダーズに移籍したころからバックアップに甘んじるようになった。ただし、価値の高いバックアップだった。

特徴がないとはいったものの、ショートパスの精度は高く、故障にも強い。彼自身の力でゲームメークはできないかもしれないが、有能なワイドレシーバー(WR)やランニングバック(RB)の能力を引き出すことには長けていた。普段は先発QBの陰に隠れながら、必要があれば代理のスターターを務め、またバックアップに戻っていく。まるで影武者のような存在だった。

バックアップQBに最も求められる資質は、先発QBの欠場の間にしっかりとオフェンスを支えることだ。スターターとあまりにも違うスタイルではオフェンスが機能しないので、完コピと言わないまでもチームのスキームを踏襲することが要求される。マッコウンはそれができる稀有(けう)なQBだった。だからこそ多くのチームに必要とされてきたのだ。

誰もが華やかに活躍するフランチャイズQBになることを夢見る。しかし、マッコウンのように控えの仕事を全うし、必要な時に前線で活躍する選手もまたNFLでは重宝される。こうした競技生活もまた、輝かしいNFL生活と呼ぶにふさわしいだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。