コラム

スティーラーズの新生オフェンスはどこまで通用する?

2019年06月30日(日) 10:45

ピッツバーグ・スティーラーズのベン・ロスリスバーガーとリビオン・ベル【AP Photo/Bill Wippert】

NFL全チームのトレーニングキャンプの日程が発表になり、間もなく「仕上げの夏」が始まる。すでに各チームはOTA(チーム全体練習)やミニキャンプを経ており、2019年シーズンに向けてのチーム作りは少しずつ進んでいる。

移籍選手やルーキーなど新たな人材を加えて戦力向上を図るチームが多い中で、スティーラーズのオフェンスはエース級の選手2人を失っての新体制となる。

ランニングバック(RB)リビオン・ベル(ジェッツ)とワイドレシーバー(WR)アントニオ・ブラウンがこのオフに相次いで退団した。この2人は一昨年までクオーターバック(QB)ベン・ロスリスバーガーとともにオフェンスの核をなしていた。いわゆる「キラーB」である。

この3人が揃うオフェンスはNFLトップクラスで、かつてはディフェンスの印象が強かったスティーラーズが最近ではオフェンス力でスーパーボウルを目指す集団に変ぼうしていた。しかし、優勝候補の一角に数えられていた数年前から一転してオフェンスはロスリスバーガー以外に核となる選手が不在のユニットになってしまった。

人材が全くないわけではない。WRではブラウンと双璧をなしたジュジュ・スミスシュースターがエースに昇格し、ジャガーズから移籍のドンテ・モンクリフとコンビを組む。RBではジェームズ・コナーが昨季出場を拒否したベルに代わって先発を務めた。

しかし、当然ながらスミスシュースターもコナーもそれぞれブラウンとベルの代役が務まるタレントではない。モンクリフに至ってはコルツ時代を含めても733ヤードレシーブが自己ベストだ。キラーBによる爆発的なオフェンスの再現は望むべくもない。

ブラウンとベルの強さは、相手ディフェンスが対策を立ててもそれを上回るパフォーマンスで対抗しえたところにある。そして、この2人が同時にフィールドに立つことによってディフェンスのカバーが分散し、それぞれにより有利な環境が生まれていた。スティーラーズの現有の戦力ではディフェンスから同等のカバレッジの分散を引き出せるとは考えにくい。

ロスリスバーガーは「今のオフェンスのメンバーにいい感触を得ている。多くの練習時間を割いてきたし、それはこれからも必要なことだ。未来は予想できないが、全力を尽くして戦うことだけは断言できる」と述べているが、本音とは程遠いだろう。昨年出場できなかったプレーオフへの復帰も難しいのが現状だ。

AFC北地区ではレイブンズがQBラマー・ジャクソンを中心としたオフェンスを構築し、ブラウンズは大型補強で戦力アップを図った。ベンガルズのパスオフェンスも健在だ。スティーラーズの状況は決して楽観できない。

ロスリスバーガーは自身のNFLキャリアが終盤に差し掛かっていることを自覚しているはずだ。ブラウンやベルが在籍していた時ですら届かなかったスーパーボウルは今やさらに遠い舞台なのかもしれない。自身の花道を飾れるかどうかは、彼自身がいかに新たなオフェンス戦力を育てるかにかかっている。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。