コラム

NCAAとも連携する安全性向上への取り組み

2019年07月01日(月) 07:01


NFL医療最高責任者アレン・シルズ博士【AP Photo/David J. Phillip, File】

NFLがNCAA(全米大学体育協会)と連携して安全性向上への取り組みを拡大しようとしている。6月17日、18日、NFLのジェフ・ミラー健康兼安全活動担当副社長とNFLの医療最高責任者アレン・シルズ博士はNCAAの本部があるインディアナポリスで怪我の予防と治療に関する調査データを共有し、安全性の改善を目的とする正式なミーティングを行った。このミーティングにはNCAAスポーツ科学研究所の他、SEC、Big 12、Big Ten、Pac-12、ACCという有力カンファレンスが参加したということだ。

その意義についてシルズ博士はAP通信に対し、「私たちが取り組んでいること、見つけていること、そしてその知識をプロのアスリートの日々のケアにどのように応用しているかを彼らに提供することができます。私たちはまったく同じ目標を共有しているので、これが2つの組織間のさらに定期的な交流の始まりとなることを臨んでいます。そうなれば選手たちの健康と安全を改善することができるでしょう」と語ったということだ。

ミーティングでは脳しんとうの予防と治療、ケガの軽減プラン、メンタルヘルスと健康、機器の革新、そして2つの組織間の連携を改善するためのステップなどが取り上げられたとしている。

近年NFLでは安全性向上の意識が高まり、取り組みが続けられている。ミラー副社長は過去10年間で安全性向上のためのルール変更は50回から60回も行われてきたと話す。ルール変更にあたって競技委員会が定期的に医療チームに報告するようにもなったという。さらにコーチや選手たちもこの問題に敏感になっており、医療チームの出すアドバイスや報告を意識するようになっているということだ。選手がヘルメットなどの用具に関する質問をすることも増えたのだとか。コーチにとっても安全性向上は重要な関心事になっているとミラー副社長は指摘する。「コーチは選手のパフォーマンスに関心を寄せており、リーグでトレーニングシーズンとレギュラーシーズンを通して、選手が長期に渡り在籍できることを望んでいます」とコメントした。

安全性向上というとこれまで大きな関心が寄せられてきたのは、脳しんとう問題だった。

この問題は一時集団訴訟にまで発展し、上限なしの賠償をNFLが行うことになったが、その後もリーグや関係企業、医療機関を巻き込んで対策がとられてきた。昨年から公表されているNFLとNFLPA(NFL選手会)が共同で行ったヘルメットの性能テスト結果には大きな関心が寄せられてもいる。そうした結果、昨シーズンの脳しんとう発生数は214で、2017年の281から24%減少したということだ。

今回シルズ博士とミラー副社長はこの取り組みの継続の必要性を認めたうえで、取り組みをもう一つの重要な問題、足首の捻挫やハムストリングの肉離れ、膝の靱帯断裂といった回復に時間がかかる下半身の怪我にまで広げるべきだと指摘している。

ミラー副社長は「足、足首、または膝のけがを理解するための包括的なアプローチを行っています。シューズの性能やそのトラクション、それらが異なる表面からどのようにはがれるかで怪我の可能性がどうなるか、日常やトレーニングキャンプを通じたどう選手がトレーニングすると捻挫や怪我にどう相関するかなど」とした。過去3年間で6,000万ドルの予算がかけられているという。

さらには脊椎の損傷や心臓発作、熱中症などへの対策にも広げる必要があり、そのための有効なアプローチとしてNCAAや大学との連携を挙げている。シルズ博士は「我々双方が取り組む研究課題についてコラボレーションすることには多くのポテンシャルがあります。例えば我々はフィールド表面とシューズと表面の関係についての大きな研究があります。NFLで1,800人の選手を対象にできますが、NCAAの選手の数ならもっと多くに拡張できることのパワーを想像してみてください。より多くの選手がいるならより早く、より大きなパワーで結論に到達できるでしょう」と指摘している。

連携によってより安全なフットボールに進化することが期待される。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。