コラム

プレシーズンゲームの減数に言及したグッデルの狙い

2019年06月16日(日) 11:07


ロジャー・グッデル【AP Photo/Julie Jacobson】

NFLコミッショナーのロジャー・グッデルがプレシーズンゲームを現行の4試合から減らす案に言及したことが波紋を呼んでいる。

6月初旬に、元ビルズのクオーターバック(QB)ジム・ケリーの主催するチャリティーゴルフイベントに参加した際に報道陣に打ち明けたものだ。グッデルは「われわれは最高のクオリティを持つ試合を提供する義務がある。4試合行っているプレシーズンゲームがその条件に見合っているとは思えない」と述べ、さらに「コーチたちとも協議したが、現在のプレシーズンゲームが選手の評価や強化にはたして必要だろうか。何か別の方策もあるのではないか」と開幕前の最終ロースターを決める判断材料をプレシーズンゲーム以外に模索する可能性を示唆した。

確かにプレシーズンゲームはそのほとんどがバックアッププレーヤーのための試合であり、レギュラー陣が出場するのは最終の2試合くらいだ。トム・ブレイディほどのベテランになれば全く出場しないケースもあるくらいだ。

当然レギュラーシーズンに比べて集客も視聴率も期待できない。それを4週も行うのは無駄であるという考え方は一理ある。

しかし、グッデルの真意はプレシーズンの「有効活用」ではない。レギュラーシーズンの増加である。

グッデルはかねてからレギュラーシーズンゲーム数を現在の年間16試合から18試合に移行する構想を持っていた。わずか2週とはいえレギュラーシーズンを長期化すれば、それに伴うリーグの収入は莫大なものになる。

現在5試合が開催されている国外試合(ロンドン4試合、メキシコ1試合)を増やすことも可能で、NFLは重要コンテンツである試合を他国に「輸出」しやすくなる。

ただし、選手および選手協会(NFLPA)は難色を示している。試合数が増えることで選手の体へのダメージもより大きくなり、長期的にみて選手寿命にも影響を及ぼしかねない。ケガによる重度の障害や後遺症に対する補償、より手厚い年金制度などをNFLPA側が要求するのも無理はない。

グッデルはしばらくこの構想を封印してきた。ここで再びテーブルの上に持ち出したのは、2020年シーズン後に満期を迎える労使協定(CBA)の延長交渉が間もなく始まるからだ。現行CBA(2011年発効)の延長交渉の際にはNFLPAとの関係がこじれ、チーム側が選手をチーム施設から締め出す「ロックアウト」が行われた。

より高年俸を求めて態度を硬化させた選手やNFLPAを非難する声がなかったわけではないが、世論の批判はリーグに向けられた。ファンがシーズンの中止を危惧したためだ。最終的にNFL側が折れる形で交渉が再開し、何とか現在のCBAがまとまった。

当時の交渉でもグッデルはレギュラーシーズンの試合数増を提案している。しかし、強固な反対にあって引っ込めざるを得なかった。それから8年が経ち、グッデルは再び試合数増の可能性に賭けたのだろう。

NFLも全く譲歩してこなかったわけではない。故障者リザーブリストにかかわるルールにしても、かつては一度登録されればそのシーズンは復帰不可だったのが現在では限定数ではあるものの、ロースター復帰が認められるようになった。おそらく次の交渉では各チームが1週ずつ与えられているバイウイークを2回に増やすなどの方策も議論されることになるだろう。

実は次回のCBA延長交渉は前回よりも難航するとの予測がある。年々高まる脳震盪への危惧や引退した選手への年金制度のためにNFLPA側の要求がより強くなっているからだ。そこにきてより大きな反発を招きかねないレギュラーシーズン増をどのようにグッデルとNFLが打ち出していくのか。まもなく始まる労使交渉に注目していきたい。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。