コラム

1年契約で巻き返しを狙うベテラン選手たち

2019年06月10日(月) 05:34

ジェラルド・マッコイ【AP Photo/Mark LoMoglio】

前バッカニアーズのディフェンシブタックル(DT)ジェラルド・マッコイがディビジョンライバルのパンサーズと総額1,025万ドルの1年契約を結んだ。契約交渉も兼ねたジェネラルマネジャー(GM)マーティ・ハーニーとのランチにはラインバッカー(LB)ルーク・キークリー、タイトエンド(TE)グレッグ・オルセン、DTケイワン・ショート、LBシャック・トンプソン、オフェンシブガード(OG)トレイ・ターナー、ランニングバック(RB)クリスチャン・マキャフリーも参加して入団を勧めたという。

通算54サックでオールプロ選出の経験もあるマッコイだが、31歳という年齢もあってバッカニアーズから解雇された。レイブンズやブラウンズが獲得に名乗りをあげるなか、かつての宿敵を移籍先に選んだ。

最近のフリーエージェント(FA)関連のニュースではビッグネームの範疇(はんちゅう)に入るが、やはり1年契約ではマッコイのバリューが大きく落ちたと思わざるを得ない。

この時期のNFLにおける1年契約というのは実質的にキャンプまでのつなぎでしかない。チームにとっては選手にキャンプへの参加権を与えたにすぎず、開幕まで生き残れる保証をしたわけではない。「使えない」と判断すれば保証金だけ払ってリリースすればいいだけの話だ。

それだけに選手は必至だ。経験と実績はあるものの、体力の限界と戦いつつ新たな戦術のもとで過去に匹敵するだけの結果を残さなければならない。しかも、年俸に釣り合うパフォーマンスであると首脳陣に納得させる必要もある。とても厳しい条件なのだ。

サバイバルゲームともいうべき厳しい戦いに挑むベテラン選手はほかにもいる。例えばDTエンダムコング・スーだ。昨年はラムズに在籍したが、今季はバッカニアーズに移籍した。一説にはスーの入団がマッコイの解雇につながったともされる。

スーといえばライオンズ時代にNFLトップクラスのディフェンシブライン(DL)として活躍した。しかし、2015年にドルフィンズに移籍してからはその実力を生かしきれていない。昨年のプレーオフでは存在感を見せ、自身初のスーパーボウルを経験したものの、チームから再契約を提示されることはなかった。

スーにかつてほどの価値があればFAによる移籍交渉も有利に運べたはずで、プレーオフやスーパーボウルを狙えるチームを選択できただろう。バッカニアーズにそのチャンスがないとは言い切れないが、年俸925万ドルは「買いたたかれた」感が否めない。

レイブンズでサックマシーンと呼ばれたLBテレル・サッグスもまた、1年契約で巻き返しを図る。サッグスはサックスペシャリストとして限定的に使えば体力を温存しながらのパフォーマンスが期待でき、カーディナルスとしては結果的に安い買い物をしたことになるだろう。もっとも、サッグスの場合は自らの判断で引退を選択する可能性もあり、必要以上に彼に頼ったスキームを構築するのは危険だ。

クオーターバック(QB)テディ・ブリッジウォーターはドルフィンズと交渉したにもかかわらず、セインツと1年の再契約を締結した。これは事実上ブリッジウォーターがNFLでの先発復帰をあきらめざるを得ないことを示す。ドリュー・ブリーズはほぼすべてのオフェンスプレーで出場し、故障もほとんどないためブリッジウォーターに多くの出場機会は望めない。ドラフトによって次々と新しいQBがNFL入りしている昨今の傾向を見れば来年以降もブリッジウォーターを先発として迎えるチームはないと思われる。

あと2カ月もすればキャンプとプレシーズンが本格化する。その時期こそが1年契約を結んだベテラン選手が生き残りをかけるときだ。誰もが有終の美を飾ってキャリアを終えたい。しかし、その花道は自身の力で切り拓かなければならない。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。