コラム

デジタル戦略を強化するNFL

2019年09月22日(日) 10:06

カンザスシティ・チーフスのデイミエン・ウイルソン【AP Photo/Stephen B. Morton】

早くも第3週に突入したNFL2019年シーズン。第1週のアメリカでのテレビ中継における総視聴者数は昨シーズンの同週より5%増の1億0,900万人を記録した。順調な滑り出しで、人気の拡大が継続していることがうかがえる。そんな中で近年、懸念が伝えられているのが若者のNFL離れである。テレビ離れもあって将来的に人気低迷につながるのではというものだ。

そうした状況に対し、NFLは若者人気の獲得を狙ったと思われる動きをデジタルの分野で開幕前後に次々と繰り出した。

まず8月末から展開されたのが写真や動画の共有アプリ『Snapchat(スナップチャット)』だ。アプリ内の機能であるAR(拡張現実)レンズで、リーグの100周年記念レンズを展開したのだ。このレンズを選択し、Snapchatカメラを使用してリーグの100周年記念ロゴをスキャンするとNFLが制作した特別なビデオを視聴できるようになるというもの。ビデオは5日に行われた開幕戦、パッカーズとベアーズの歴史的なハイライトを編集した内容だった。さらにビデオ下部には試合までのカウントダウン表示もされるようになっていたとのこと。

SnapchatとNFLは今後もARレンズのテーマを拡大し、過去のスーパーボウルやライバル対決、NFL100の名ゲームなどを展開していく予定だとしている。

一方、開幕戦直前の現地3日に発表されたのが、日本でも若者に大人気のモバイル向けショートビデオのプラットフォーム『TikTok(ティックトック)』とのパートナーシップ契約だ。発表によればTikTokのNFL公式アカウントの開設のほか、ハッシュタグチャレンジなどNFLのコンテンツに関するブランドマーケティングが展開されるとしている。

9月3日から5日にかけて、「#WeReady」のハッシュタグでファンがお気に入りチームを応援できる最初のハッシュタグチャレンジが実施された。今後、NFL公式アカウントには舞台裏やハイライトなどのビデオが展開されていく予定だという。

この提携で興味深いのはTikTokが中国発のサービスであり、グローバルな展開も含まれている点だ。提携についてブレイク・スタチンNFLデジタルメディアビジネス開発担当副社長は、数カ月にわたって交渉してきたことを明かした上で「われわれは常に市場の状況を追い続け、挑戦し、革新し続けるために新しい製品を検討しています」とコメントしている。

さらに開幕当日の5日にはニュース記事、画像のリンクやテキストを投稿し、コメントをつけることができるソーシャルブックマークサイト『Reddit(レディット)』との提携も発表された。より広いコンテンツと広告展開の一環として、NFLに関する「Ask Me Anything(AMA/何でも聞いて)」と名付けられたディスカッションを開催するとしている。

このAMAは現役や引退したNFL選手やリーグの重役、チームスタッフ、有名ファンなどがゲストとして登場し、一般ユーザーからの質問に回答する企画だ。ゲストをメインとしたデジタルビデオのシリーズも制作され、RedditとNFLのソーシャルメディアチャンネルや公式サイトなどで配信される。AMAはシーズン中、月1回以上開催され、徐々に回数を増やしていく予定だという。

11日に発表されたのは大手動画配信サイト『YouTube(ユーチューブ)』とソーシャルメディア大手『Facebook(フェイスブック)』に関するものだった。

YouTubeではこれまでもNFLやチームの公式チャンネルなどで数多くの動画が配信されてきた。今回発表されたのはNFLフィルムズが製作するオリジナルビデオシリーズ「NFL Game Day All-Access」のYouTube独占配信である。1回20分の各エピソードは毎回異なる選手、コーチに焦点を当て、試合当日の様子をフォローした構成となっている。スタジアムへの到着からウオームアップ、試合中、試合後のアクティビティ、スタジアムを離れるまでに密着する。

初回は11日に配信が開始されており、今後、全22エピソードが公開されるとのこと。

Facebookに関してはこれまでもFacebook Watchでビデオ配信が行われてきたが、今回新たに複数年契約が結ばれ、より多くのビデオコンテンツを展開することになった。配信されるのはNFLネットワークで作成されたニュース映像、NFLによるポッドキャストのビデオバージョン、過去のNFL Filmsコンテンツなど。さらに、NFLをテーマにしたグループを作成し、シーズン中は毎週「ウォッチパーティー」を開催して、ファンが先週のゲームについて一緒にチャットできるようにするとのことだ。

ほぼ同時に複数のプラットフォームへの進出強化を打ち出したNFL。この貪欲な姿勢こそが成功への秘訣なのかもしれない。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。