コラム

ロンドンのNFL用新スタジアム

2019年10月06日(日) 07:37

イギリス・ロンドンのトッテナム・ホットスパー・スタジアム【AP Photo/Frank Augstein】

アメリカ以外の海外でレギュラーシーズンゲームを開催するNFLインターナショナルシリーズ。そのイギリス・ロンドン開催分、いわゆるロンドンゲームズが始まる。今シーズンは新たな要素が加わった。これまで開催されてきたウェンブリー・スタジアムやトゥイッケナム・スタジアムに加え、現地10月6日(日)に開催されるベアーズ対レイダース、13日のパンサーズ対バッカニアーズが今年4月に完成したトッテナム・ホットスパー・スタジアムで開催されるからだ。

ただNFL UKのアリステア・カークランド事業ディレクターが「過去に複数の試合に行ったことのあるファンには違った風景となり、われわれがどうしようとしているかわかるでしょう」と語るのには単に新しいスタジアムだからというわけではない。同スタジアムはNFL用に設計されたスタジアムなのだ。

もちろんこのスタジアムはサッカー、プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーFCがオーナーでメインのテナントではある。ただ同クラブは2013年に新スタジアムでNFLの試合を開催する構想を明らかにし、2015年にはスタジアムのオープン後、毎年最低2試合、NFLの試合を開催する契約を結んでいるのだ。そのためトッテナムのビジネス開発責任者であるエイダン・ムラリー氏は「これはNFLスタジアムです。それは重要なメッセージです。設計プロセスの段階からNFLが念頭にありました。メインのテナントはトッテナムですが、アメリカの外でNFLのための恒久的なホームとなるよう設計されているのです」と断言している。

NFL用施設としての大きな特徴としてまず挙げられるのがフィールドだ。サッカー用のフィールドは最新式のハイブリッドターフなのだが、カーディナルスの本拠地ステートファーム・スタジアムと同じように可動式となっており、3分割して移動、収容できるのである。下には人工芝のNFL用のフィールドが設置されているのだ。しかもサッカー用よりも1.6メートル低くなっており、サイドラインに多くの選手やコーチ、スタッフなどが並ぶNFLの試合でも1階スタンド前方からの視線を妨げにくくなっている。

またNFL用のロッカールームも造られた。NFLは選手の数が多いだけでなく、用具などサッカーに比べ多くの器具、機器がロッカールームで使用される。そのためトゥイッケナムではラグビー用のロッカールームを改装したほどだという。このためカークランド氏は「他のスタジアムではNFL用にするのにより多くの作業が必要でした」とメリットを強調している。

さらにNFL用のゲートまでスタジアム東側に設けられた。

もちろんNFL専用というわけではないが最新のスタジアムとしてさまざまな設備も充実している。65メートルというイギリスで最長のバーを含め、飲食の店舗は60もあり、しかもロンドンの有名飲食街を模した設計となっている。

Wi-Fiもスタジアム全体をカバーしており、ファンは無料で使用できる。スタジアム専用アプリを使えば、一番近いバーやトイレの位置を案内してくれる他、混雑状況まで示してくれるということだ。

実は同スタジアムでは既にNFL関連イベントがすでに開催されている。7月2日には海外出身で若手選手の育成を目的としたNFLアカデミーのトライアウトが開催された。さらにその翌日には8歳から11歳の児童たちが参加した全英NFLフラッグチャンピオンシップが開催されている。これが同スタジアムでの最初のアメリカンなフットボールの最初の試合となったということだ。

同スタジアムの登場により、ウェンブリーでのロンドンゲームズは今シーズンは10月27日のベンガルズ対ラムズと11月3日のテキサンズ対ジャガーズの2試合となっている。

ロンドンゲームズの人気は依然高く、全4試合が完売となっている。カークランド氏によれば約80%がイギリスからのファンで、その40%がロンドンとその周辺からだという。アメリカからの観客は約7%で、ヨーロッパの他の地域空が12%、その大半はドイツからだとか。

トッテナムとウィンブリーが併存することについて両スタジアムには違った魅力があるとカークランド氏は強調する。「ウィンブリーは広大な規模と歴史があります。トッテナムはモダンで最先端であり、NFL用の施設です」

もう1試合のインターナショナルシリーズは11月18日に行われるチーフス対チャージャーズのメキシコゲームだ。今シーズン、これら5試合はどんな熱戦を海外のファンに見せるだろうか。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。