バーフィクト厳罰に見るNFLの強硬姿勢
2019年10月06日(日) 15:35レイダースのラインバッカー(LB)ボンタゼ・バーフィクトが頭部への危険なタックルを行ったとしてNFLから処分を受けた。今季の残り試合への出場停止という厳しい内容だ。バーフィクトはポストシーズンも含めて処分期間中は完全無給となる。
フィールド上におけるプレーに対するものとしては過去最長の処分期間となったが、強硬な姿勢をあえてとったNFLには安全管理に対するリーグの方針を内外に強くアピールする狙いがある。
問題のプレーが起きたのはシーズン第4週の対コルツ戦の第2クオーターだ。パスキャッチをして両膝が地面についた状態のタイトエンド(TE)ジャック・ドイルに対してバーフィクトが頭部へのタックルを行ったのだ。
パスキャッチ直後のドイルはレイダースのディフェンダーからコンタクトを受けていないので、タックルそのものは反則ではない。しかし、バーフィクトはヒットの瞬間に明らかに頭を下げ、ヘルメットの頭頂部からドイルの頭にコンタクトしている。ドイルが無防備な状態であるだけでなく、ヘルメットを武器として使う悪質なプレーだ。
当然このプレーは15ヤードの罰則の対象となったが、それだけでなくオフィシャルによるビデオリプレーの結果バーフィクトは退場処分となった。そして、一夜明けた月曜日になってNFLは今季の残り試合の出場停止処分をバーフィクトに科したのだ。
ここまでの長期の出場停止になった理由としてNFLはバーフィクトが過去にも危険なプレーに対する複数回の処罰を受けていることをあげている。
確かにバーフィクトは昨年まで在籍したベンガルズ時代に、危険なプレーに対する罰金や出場停止処分を計13回も受けている。最近では2017年シーズンの開幕戦から3試合に出場停止となったのが記憶に新しい。このとき、NFLは5試合の処分を科したが、バーフィクトの異議申し立てが聞き入れられて3試合に軽減された。
NFLは同内容の違反を繰り返す選手や関係者に対し、徐々に処分を重くする「累積制度」を採用している。例えば薬物規定違反で4試合の出場停止処分を受けた選手が同じ違反を繰り返せば次の出場停止期間は6試合ないし8試合となる。さらに違反を重ねた場合は1年間の出場停止だ。この累積加算の方針がバーフィクトにも適用された。
今回のケースでもバーフィクトは異議申し立てをする意向を明らかにしている。そして、処分が軽減される可能性も十分にある。
ただし、これはNFLにとってあまり大きな問題ではない。NFLが重視するのは実際のバーフィクトの出場停止試合数などではなく、NFLが選手の安全面を最優先事項としているという姿勢を明らかにすることだからだ。
とくに脳震盪を含む脳へのダメージの問題は巨額な補償の対象となりうる懸案事項であり、NFL選手会やOBたちの思惑も絡み、リーグにとっては文字通り頭痛の種だ。NFLがプロスポーツの中でも際立って脳震盪に神経質なリーグであるのはそのためだ。
そんなNFLにとってバーフィクトの危険タックルは看過できるものではなかった。そして、バーフィクトの異議申し立ても計算のうちだろう。選手が納得できないほどの厳しい処罰を科したことの証明になるからだ。これがリーグ外へのNFLの姿勢を示すものであると同時に、リーグ内に対しては同様のプレーに対して厳罰が待っていると伝える強烈なメッセージであることは言うまでもない。
そのメッセージはまたバーフィクトにも伝わらなければならない。おそらく出場停止処分は軽減されるだろう。ただし、「次」が起きた場合、今度はリーグからの追放の可能性も出てくる。それを回避できるか否かは彼自身にかかっている。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。