コラム

3連敗中のラムズがトレードを連発

2019年10月19日(土) 08:50

ロサンゼルス・ラムズ【AP Photo/Alex Gallardo】

シーズン第6週に地区ライバルの49ersに敗れて、ショーン・マクベイHC(ヘッドコーチ)の下では初となる3連敗を喫したラムズ(3勝3敗)。昨季スーパーボウルで自慢のハイスコアリングオフェンスがペイトリオッツに封じられてから、同じようにパスラッシュでクオーターバック(QB)ジャレッド・ゴフにプレッシャーを与えるチームが増えたことが不振の原因の一つだ。

ただ、より大きな理由は主力選手に故障者が続出して思うような布陣が組めないことにある。49ers戦ではランニングバック(RB)トッド・ガーリーがふくらはぎの故障で、ラインバッカー(LB)クレイ・マシューズがあごの骨折で欠場した。コーナーバック(CB)アキーブ・タリブ(脇腹)とオフェンシブガード(OG)ジョー・ノートブーム(右ひざ靱帯)は故障者リザーブリスト入りとなった。

トレード期限(10月29日)前にトレード攻勢に打って出たのはこうした故障者の穴を早期に埋めようとしたからに他ならない。

まず、ジャガーズからのトレード放出を望んでいたCBジャレン・ラムジーを獲得。過去にオールプロ1回、プロボウルに2回選出されているラムジーはタリブの代わりを務めることになる。もっとも、ラムジーは最近3試合を腰の故障で欠場している。すでに練習に復帰できるほどに回復しているが、第7週のファルコンズ(1勝5敗)戦に間に合うかどうかは不透明だ。

さらにブラウンズからセンター(C)オースティン・コルベットを獲得。これはノートブームの穴埋めだろう。

驚いたのはCBマーカス・ピーターズをレイブンズにトレードしたことだ。交代要員としてLBケニー・ヤングと来年のドラフト5巡指名権を獲得した。これはLBの補強というよりは、CB不足に悩むレイブンズの要求に応じたものか。ピーターズは今季限りで契約が終了して来春にはフリーエージェント(FA)となる。控えのトロイ・ヒルが育っているとの判断で、早めの世代交代を行ったのだろう。

ほころびをすぐに埋めるのはマクベイHCの方針のひとつだ。昨年の終盤にガーリーが膝の故障で戦列を離れた時もすぐにFAだったC.J.アンダーソンを契約して急場をしのいだ。今回の、一見拙速に見えるトレード攻勢も開いた傷口をすぐにふさごうとするマクベイ流のやり方だ。

ここまでトレードが頻発すると来年以降のドラフト指名権が気になる。まず、来年と2021年の1巡指名権は今回のラムジー獲得で失った。また、コルベット獲得のために来年の5巡指名権も手放した。昨年、ダンテ・ファウラーをジャガーズからトレードで獲得した際に来年の5巡指名権を譲渡しているが、ピーターズとの交換条件で同じラウンドの指名権を獲得しているからこれは(指名順位の違いはあるが)プラスマイナスゼロだ。

ただし、今後2年間の1巡指名権を失ったのは大きい。もともとFAやトレードによる補強を積極的に行うラムズだが、1巡指名権はやはり特別だ。失った1巡指名権を取り戻すのは難しい。それこそディフェンシブエンド(DE)アーロン・ドナルド級の選手のトレード放出が必要となる。

昨年のラムズもそうだったが、優勝を狙うには機が熟しつつあるとの機運がチームにある。今がスーパーボウルで勝つチャンスだと考えているのだ。このチャンスはいつまでも続くものではない。だからこそ、今できる補強は重要なドラフト指名権を譲渡してでも行っておきたいのだ。

過去にFAやトレードに頼った急速な補強を行ったチームがのちに選手の年俸高騰やドラフト指名権不足で苦しんだ例はいくらでもある。ラムズもいずれその道をたどってしまうのか。それともマクベイを支えるフロント陣には秘策があるのか。

チーム再建を短期で行った成功例として挙げられるラムズだが、それが本当の意味での成功だったのかが判断されるのは数年後になるだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。