コラム

地元人気の獲得に悩むチャージャーズ

2019年10月19日(土) 19:00

ピッツバーグ・スティーラーズファンで埋まるロサンゼルス・チャージャーズの本拠地ロキット・フィールド・アット・ディグニティ・ヘルス・スポーツ・パーク【Peter Read Miller via AP】

現地10月13日に行われたサンデーナイトフットボール(SNF)、スティーラーズ対チャージャーズのテレビ中継画面を見て驚かれた人もいるのではないだろうか。チャージャーズの本拠地ロキット・フィールド・アット・ディグニティ・ヘルス・スポーツ・パークで開催されたのにもかかわらずスタンドはスティーラーズのファンが大半を占め、スティーラーズの応援グッズ「テリブルタオル」が振り回されていたからだ。

この光景にツイッターでは「自分は南カリフォルニアにいるんだよな」、「多分99対1でスティーラーズのファン」といったツイートが飛び交ったほどである。

そして24対0でスティーラーズがリードした第4クオーターの序盤、チャージャーズの選手やファンをさらに困惑させる事態が起こった。場内放送でスティーラーズのファイトソングであるロックバンド、スティクスの『Renegade』が流されたのである。まるでここがスティーラーズのホームであるかのように。

実はこれ、“リックロール”と呼ばれるいたずらだ。スティーラーズのファンが『Renegade』を歌い出したところで“リックロール”のオチである歌手リック・アストリーの曲『ギヴ・ユー・アップ』に変わってしまうという演出だったのである。最近この“リックロール”を使った演出をするスタジアムやアリーナが多くなっている。

とはいえ、リードされている上に、スティーラーズのファンが大半という状況で、この演出は効果的とはいえなかったようだ。試合後、チャージャーズのランニングバック(RB)メルビン・ゴードンは地元紙ロサンゼルス・タイムズに対し、「あれはクレージーだった。彼らはやつらのテーマ曲をかけ始めたんだ。やろうとしていることがわからない。ちょっとした音楽だけど、ホームゲームですべきことか。何故やったかわからない」とコメントしている。さらにオフェンシブライン(OL)のフォレスト・ランプは「自分たちはここにファンがいないことに慣れてる。でも、第4クオーターに彼らの音楽をかけることはひどい。自分たちはホームにいるんだ。誰が担当したのか知らないけれど、たぶん彼らは解雇されるべきだ」と怒りを露わにした。

ランプの言葉にあるように、実はチャージャーズのホームゲームがビジターチームのファンで埋め尽くされるのは今回が初めてではない。サンディエゴからロサンゼルスに移転した2017年シーズンのイーグルス戦ではイーグルスのファンが詰めかけた。昨年のチーフス戦はスタンドが赤く染まったのである。

もともと、サッカー用に建設されたディグニティ・ヘルス・スポーツ・パークはNFLのスタジアムとしてはとても小さく約2万7,000人しか収容できない。にもかかわらず売り切れることがほとんどない状況が続いている。満員になるのは対戦チームのファンのおかげだったりするのだ。今シーズンも第9週にパッカーズ戦が、第11週にチーフス戦が開催予定となっており、今回と同じようなことになりそうだ。

ただ、この地元ロサンゼルスのファンをつかめていないチャージャーズの状況は将来的なビジネスに大きな影響を生みつつある。来年、ロサンゼルスの近郊イングルウッドに完成予定のSoFiスタジアムでのパーソナル・シート・ライセンス(PSL)の販売不振だ。PSLはシーズンチケットを長年に渡って買い続けることができる権利である。近年、PSLの販売はチームにとって重要な収益源となっている。

SoFiスタジアムはラムズのオーナー、スタン・クローンキー氏が率いるクローンキー・スポーツ&エンターテイメントがスタジアムに18億ドルを投じて建設されている。チャージャーズはいわば借り手としてラムズと共に同スタジアムをホームとする予定だ。7万人収容のスタジアム運営を助けるためもあり、チャージャーズは4億ドルのPSL販売を計画している。

しかし、経済誌フォーブスによればこれまでに売れたのは1億ドルだけだという。両チームの間で販売額が計画に達しなかった場合、スタジアムの収益の分配比率が変動することに合意しており、ラムズに被害は及ばないという。加えてラムズのPSL販売は好調ということだが、チャージャーズには将来的な収益減となってしまうのである。

第6週を終えて2勝4敗と地区最下位に沈むチャージャーズは成績だけでなく、地元人気という難敵との戦いが続くこととなる。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。