コラム

第54回スーパーボウルのCM枠が早くも売り切れに

2019年12月02日(月) 06:30


ハードロック・スタジアム【AP Photo/Wilfredo Lee】

現地11月25日、来年2月2日にマイアミで開催される第54回スーパーボウルを全米テレビ中継するテレビネットワーク『Fox』が試合中のCM枠が売り切れたと発表した。やはりFoxが放送を担当し、2013年12月に売り切れを発表した第48回以降では最速での売り切れ発表となっている。

また30秒のCMを1回放送するための金額は平均560万ドルに達した模様だ。これはCBSが放送した前回、第53回では510万ドルから530万ドルを上回り、スーパーボウル史上最高額を更新している。もちろん世界で一番高額なCM放映権料だ。

このような好調ぶりにはいくつかの要因が組み合わさっている。まず挙げられるのがNFLの人気回復だ。NFLのレギュラーシーズン中継に関しては2016年、2017年と視聴率の低下が続いた。原因としては国歌斉唱時の抗議活動問題や若者離れなどが指摘されていたのである。それが昨シーズンから回復しており、今シーズンも第11週までで平均視聴者数が1,600万人、視聴率9.3%で、前年比で6%増だ。

またスーパーボウルも第53回は平均視聴者数が9,820万人と第52回の1億0,340万人よりも5%減ったものの、それでも視聴率41.1%と1年で最も視聴率が取れる圧倒的な人気番組であることには変わりがない。

またアメリカの経済自体が好調を維持していることも企業がCMの放送に意欲を見せられる背景にもなっている。

さらに今回は試合中継自体にも大きな変化がある。前回までスーパーボウルの試合中継では1つのクオーターにつき、CMを放送するためのコマーシャルブレイクが5つ設けられていたのだが、今回から4つに減らされたのである。これはCMが多すぎ、さらに試合時間も長くなることで視聴者離れ、ファン離れの原因となることへのNFLとFoxの対策なのだ。コマーシャルブレイクが減るということは放送できるCMの数も減るわけで、放送を希望する企業が早い段階から殺到したようである。実際、多くの視聴者が見込める「A」と呼ばれる各コマーシャルブレイクの最初のCM枠は11月5日には売り切れが宣言されていた。

さらに早期の売り切れ発表はFoxの戦略もあるようだ。実は近年、放送を担当したネットワークは試合の直前まで売り切れを発表しなかったのである。これは2、3の枠を残しておき、直前になって放送を希望した企業に対し、高額な権料で枠を販売するのが目的だ。2018年の第52回では金曜午後にトヨタとウェブサイトサービスのWix.comが枠を購入している。対してFoxはこれまで挙げたような要因により、需要が活発なことから早期に売り切る策に出たようである。

ただFoxはこの売り切れで手を緩める気はないようだ。Foxのセス・ウインター副社長は「CM制作の準備が整っていなかったり、決断が遅れてしまったりしたために枠を獲得できなかった広告主が多く存在するので、試合の前後の番組を用意して枠を獲得できるようにします」とコメントしている。日本では放送されないものの、試合の前にはプレビュー番組が長時間放送されるし、試合後もテレビを見続ける視聴者が多いのである。そうした番組のCM枠を最高30秒300万ドル程度で販売すると見られている。

第54回スーパーボウルをめぐってはまだプレーオフ争いの真っ最中だ。しかし、全米テレビ中継においてはすでにFoxの勝利が確定したようである。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。