コラム

ロンドンを重視するジャガーズ

2020年02月24日(月) 11:41


NFLロゴとイギリス国旗【AP Photo/Tim Ireland】

ジャクソンビル・ジャガーズが今年2週連続でイギリス・ロンドンのウェンブリー・スタジアムでホームゲームを行うことが発表された。1つのシーズンに、1つのチームがアメリカ国外で2試合行うのはNFL史上初だ。ロンドンゲームはウェンブリー・スタジアムとトットナム・ホットスパー・スタジアムで2試合ずつが予定されている。

今回このような措置がとられたのはジャガーズのオーナー、シャド・カーン氏が行っている再開発事業、“Lot J(ロットJ)”プロジェクトに対応するもの。同プロジェクトには5億ドルが投じられ、ジャガーズの本拠地TIAAフィールドの周辺地区にエンターテインメント施設やホテル、住居棟、追加の駐車場などが建設される。

ジャガーズのマーク・ランピング社長は「ジャクソンビルで成功するフランチャイズを運営するための長期的な見通しとコミットメントの改善に向けた新しい収益源の創出のための取り組みを継続しており、終わりはありません」、「ジャクソンビルのポテンシャルには限界がありません。ジャガーズが触媒として奉仕することで、我々がそれを現実化できると自信があります」とコメント、地元経済発展に向けた取り組みであることを強調している。カーン氏も「これはジャクソンビルにとって今シーズンや数シーズン先についてではなく、次の10年、25年以上についてです」とした。

その上でランピング社長は「素晴らしい関係を持つロンドン・ウェンブリー・スタジアムで2試合を行うことは少なくとも来シーズン、恐らく完成までの数年、今とLot J開発のオープンまでのギャップを乗り越える助けとなるでしょう」と、ロンドンでの2試合開催が今年限りでないことも示唆している。

再開発事業との関連を2試合開催する理由としたジャガーズだが、2013年以降これまで7年連続でロンドンで試合を行ってきた。これは最多で2位は4試合のドルフィンズとラムズだから段違いに多い。ロンドンゲームズへの参加を重視する戦略をとっていることは明白だ。

その理由だが、1つめには収益拡大のためだ。ジャクソンビルは人口80万人ほどの中都市で経済圏は決して多くはない。ジャガーズは2019年シーズン、ホームゲームの平均入場者数は6万3,085人で22位だった。ただし8万4,771人が入場したロンドンゲームを差し引いて計算し直すと、ジャクソンビルでの平均入場者数は5万9,987人で28位相当だ。8万3,000人以上が望めるロンドンゲームはマーケットが大きくないジャガーズにとってとても重要なのである。

ランピング社長も「過去7シーズン、われわれのロンドン戦略はゲームチェンジャーになりました。ロンドンを含め、単発のアプローチにしないことがジャクソンビルのようなサイズのマーケットに通じるおおくの課題への答えになります」とこの点を認めている。

またカーン氏自身とのイギリスとの関係も理由の一つだろう。カーン氏は2013年、ジャガーズに続き、サッカー・プレミアリーグのフルハムFCを買収し、オーナーに就任しているのだ。さらにウェンブリー・スタジアムの買収も望んだが、スタジアム・オーナーのフットボール・アソシエーションから承認されなかった経緯もある。

こうしたこともあり、カーン氏は「ロンドンで2つのホームゲームをプレーする機会を活用するのにこれ以上のタイミングはありません。ロンドンで、そしてイギリス全体でロヤリティが高く、成長し続けているファン層の開発を続けます。ここで我々が望み、必要とし、持たなければならない新しいダウンタウン体験を作り出します」と戦略強化を明言した。

ロンドンにNFLのフランチャイズを、という声も出始めている中で、ジャガーズの今後の動向が注目される。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。