コラム

選手側の反発必至、新CBA案は選手の負担増へ

2020年03月02日(月) 11:00

ワイルドカード【Ryan Kang via AP】

現在のNFLと選手側の労使協約(CBA)が来年の3月で失効するのを前に、新たなCBAがリーグ側から提示され、選手会(NFLPA)が協議に入った。NFLPAは当初、新CBA案に反発を見せ、態度を保留したまま選手間で議論を重ねてきた。そして、2月25日の代表者会議を経てNFLPAで賛否を問う投票が行われることとなった。

CBA案の特徴的な新提案は2つ。レギュラーシーズンを年間17試合にすることとプレーオフを14チーム制にすることだ。選手側が大きな反発を見せたのは内容が選手の負担を増加させるものだったからだ。

現行の年間16試合制でも選手は肉体的・精神的に大きな負担がある。その間にバイウイークが1週しかないために疲労の蓄積が大きな故障や選手寿命の短期化に影響を与えると懸念されている。

さらに最近ではロンドンやメキシコなどの国外試合のあとでもバイウイークが与えられないことが多い。また、サーズデーナイトゲームが定着したために、5日間で2試合を消化しなければならない過密なスケジュールも組まれる。

NFLはレギュラーシーズンを1試合増やす代わりにプレシーズンゲームを4試合から3試合に減らし、さらにアクティブロースター枠と試合の登録選手数、各チームのプラクティススクワッドの数を増やすことを提案している。しかし、バイウイークの増加は考えていない。

レギュラーシーズン数の増加は国外のマーケットを拡大するために有効な手段だ。国外試合のためにホームゲームの開催数を減らすことなく、新たなマーケットを開拓できるからだ。ただし、もともと国外試合の増加に好意的ではない選手会は納得しないだろう。

プレーオフチームが増えるのもオーナーにとっては喜ばしいことだ。レギュラーシーズン以上の興行収入が見込めるからだ。

両カンファレンスから1チームずつがさらにポストシーズンを戦うことになり、2019年シーズンに当てはめるならばAFCはスティーラーズ、NFCはラムズがプレーオフに進出する。

一方で「第7シード」を設けることでプレーオフの競技レベルが落ちるのではないかとの懸念がある。負け越しチームがプレーオフに進出する可能性があるというのがその根拠だ。もっとも、過去10シーズンを見る限り、第7シードまでに勝利5割未満のチームが入ることはなかった。

むしろ、指摘されるべきはトップシードと最下位シードの勝利数の差だろう。同じく2019年の例でいえばAFCは1位のレイブンズ(14勝2敗)とスティーラーズ(8勝8敗)には実に6つの勝利差がある。これが同じプレーオフの舞台で戦うのはいかがなものだろうか。

プレーオフが14チーム制になると1回戦にあたるワイルドカードには第1シードを除く12チームが登場し、日程も3日間にわたるとみられている。つまり、プレーオフの1回戦バイを与えられるのはカンファレンスのトップシードだけなのである。

レギュラーシーズンが17試合になると考えると、2度目のバイウイークを享受できる第1シードの価値はより高まるといっていい。その反面、第2シードチームの恩恵との間に格差が広がることにもなる。やはりここでも選手の負担が大きくなっている。

レギュラーシーズン増は以前からオーナーやNFLコミッショナーのロジャー・グッデルが提案し続けてきたことだ。前回のCBA更新では見送られたが、満を持して正式に提案をしてきた。前述のように選手側からの評判は良くない。今回の労使交渉も相当な難航が予想される。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。