コラム

NFL以外にも影響を与える17試合制導入

2020年03月09日(月) 10:18

選手会のディモーリス・スミス【AP Photo/Chris Carlson】

新たな労使協定(CBA)を巡る交渉は案がまとまり、チームオーナー側は満場一致ではなかったものの3分の2以上の承認票を得てこれを承認した。対するNFL選手会(NFLPA)ではアーロン・ロジャースやラッセル・ウィルソン、J.J.ワットなどが反対しており、最終的に行われる全選手を対象とした投票で過半数の承認票が投じられるか見通せない状況が続いている。

反対する選手たちが最も問題視しているのがレギュラーシーズンを現在の16試合から17試合に増やすことだ。オーナー側としてはこれにより収益の拡大を見込んでいる。対してサラリーキャップの拡大と最低賃金のアップは見込めるものの、負傷のリスクが上がることに強い懸念を示している選手が多いのだ。

その一方でもし17試合制が採用されるとその影響はNFLを超えて広がることになるかもしれない。レギュラーシーズンが1週間後ろに伸びることで、プレーオフ、シーズンの締めくくりとなるスーパーボウルも1週間遅くなる可能性が高いためだ。

今回の新CBA案ではレギュラーシーズンが1試合増える代わりに、プレシーズンゲームを4試合から3試合に減らすことが提案されている。ただロジャー・グッデルNFLコミッショナーはシーズンの開幕を現行の9月第2週の週末から変更しない意向を示している。

実は1990年代までは9月最初の週末に開幕することも多かった。ただアメリカでは9月最初の月曜は日本の勤労感謝の日にあたるレイバーデー(労働者の日)の祝日と定められている。アメリカ人の多くはこの連休を利用し、旅行に出かけたり、夏の終わりを惜しんでバーベキューをしたりするのが恒例行事となっているのだ。そのため在宅率が低く、大々的なシーズン開幕にもかかわらずテレビ中継の視聴者が少なくなるという問題があった。

そのため対策を求めるテレビネットワークの要望や開幕への関心向上を目的に、2001年、当時のコミッショナーだったポール・タグリアブーが「NFLファンが夏の終わりと恒例のバーベキューを楽しめるように」することを名目に、レイバーデー後の週末の開幕に固定したという経緯があるのである。

こうしたこともあり、スケジュールが後倒しとなると、スーパーボウルは2月第2日曜に開催となる可能性が高い。その影響をまず受けるであろうと見られているのが、プロゴルフPGAツアーのペブルビーチナショナルプロアマ大会である。現在第2日曜の開催で固定されているが、もろにバッティングすることとなる。

さらにNFLのカンファレンスチャンピオンシップは現在1月第3日曜の開催だが、第4日曜の開催となるとプロアイスホッケーNHLのオールスターウイークエンドと重なることになる。

レギュラーシーズン最終週が1月の2回目の日曜に開催となると、曜日が違うがカレッジフットボールのプレーオフチャンピオンシップに影響を与えるかもしれない。

4年に一度ではあるが冬季オリンピックにも影響が出そうだ。オリンピックの全米放映権を持つNBCはスーパーボウルと冬季オリンピックのCM放映権を抱き合わせ販売するのが常套手段だ。そのため2022年に行われる北京オリンピックに合わせて第56回スーパーボウルの放映権をCBSに交換してもらったほどである。2018年の平昌オリンピックは第52回スーパーボウルから5日後の2月9日に開幕した。東京オリンピックの開催時期がNBCの意向で変更できないことが日本でもよく報道されているが、今後冬季オリンピックの開幕時期もスーパーボウルに影響される可能性は高いのだ。

影響を与えるのはスポーツだけではない。スーパーボウルほどではないにしろ毎回高い視聴率を出す映画のアカデミー賞は今年、スーパーボウルの翌週の日曜日に開催された。

さらに影響が大きくなりそうなのが、バイウイークが2つに増えた場合だ。現在の案では実現の可能性は高くなさそうだが、その場合スーパーボウルは2月第3日曜開催となる。ただこの場合は喜ぶファンは多そうだ。それは第3月曜がプレジデントデーの祝日だからである。スーパーボウルの観戦パーティーで羽目をはずし、翌日二日酔いなどの体調不良に苦しむアメリカ人は意外に多い。昨年1,700万人がスーパーボウルの翌日休みをとったというデータがあるほどである。スーパーボウルが第3日曜になればその苦しみから逃れられるというわけである。

ただそうなるとプロバスケットボールNBAのオールスターゲームとカーレースNASCARのデイトナ500とバッティングすることになる。さらにカレッジバスケットボールのスケジュールに影響を与える可能性もあるのだ。

スーパーボウルとNFLの人気は圧倒的なため、スケジューリングに悩むのは他の団体やイベントということになるだろう。ただCBA交渉と平行して行われていると見られるNFLとテレビネットワークとの放映権更新交渉では重要な要素となるかもしれない。

これほど重要なCBAが早期に決着するのか、難航が続くのか、多くの目が注がれている。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。