コラム

バッカニアーズfeat.トム・ブレイディ、その相乗効果は?

2020年03月22日(日) 05:35


タンパベイ・バッカニアーズ【Margaret Bowles via AP】

トム・ブレイディの新天地はバッカニアーズに決まった。過去20年間にわたってプレーし、NFL最多タイとなる6度のスーパーボウル優勝を果たしたペイトリオッツを去り、新チームで42歳の挑戦が始まる。

歴代のNFL選手のなかでもトップクラスに入るブレイディがフリーエージェント(FA)となることで多くのチームが獲得に乗り出すと予想されたが、意外にも選択肢は少なかった。ブレイディが家族のためにイーストコースト(東海岸)のチームを優先した事情もあるが、バッカニアーズはブレイディにとってほぼ唯一のオプションだった。

今後の注目ポイントはブレイディの加入によってバッカニアーズがどう強化されるかに絞られる。まず、クオーターバック(QB)にとって最も大事なオフェンスシステムだが、ブルース・エリアンズHC(ヘッドコーチ)はもともとパスを多用するビッグプレースタイルを好む。これはブレイディの得意な分野だ。むしろ好ましいマリアージュと言えるだろう。

エリアンズはこれまでペイトン・マニングやベン・ロスリスバーガーなどを駆使して強力なパスオフェンスを構築してきた実績がある。ブレイディがQBを務めるオフェンスでゲームプランを立て、プレーコールするのはオフェンスコーチ冥利に尽きるだろう。

ブレイディを取り巻くサポーティングキャストはどうか。バッカニアーズはクリス・ゴッドウィン、マイク・エバンスという2人の1,000ヤード達成かつプロボウル選出レシーバーを擁する。タイトエンド(TE)はO.J.ハワードとキャメロン・ブレイトでこれも名手だ。レシーバー陣は少なくとも昨季のペイトリオッツを上回るタレントが揃っている。

バッカニアーズは昨年、47回の被サック(NFLワースト11位)を許しており、ここが懸念されるがクイックリリースの得意なブレイディが加わることで、ある程度は克服できるはずだ。

ブレイディにとってNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)での戦いは初めてとなる。過去の対戦でNFCチームを苦手としてきたわけではないが、バッカニアーズの地区ライバルであるセインツ、ファルコンズ、パンサーズの研究は急がなければならない。

新たに所属することになるNFC南地区では当面はセインツと地区優勝を争うことになるだろう。これまでは4年に1回しか見る機会のなかったブレイディ対ドリュー・ブリーズの投げ合いが年に2回は見られることになるのはファンにとってはうれしい。

ブレイディによって昨年7勝9敗だったバッカニアーズが2007年以来となる地区優勝とプレーオフに向けて大きく前進することは間違いないだろう。シーズンが開幕するころには43歳になっているとはいえ、ブレイディにまだそれだけの実力は残っているはずだ。かつてマニングがブロンコスをスーパーボウルに2度導いたようにバッカニアーズの潜在能力を引き出すことに期待がかかる。

マニングは移籍2年目でブロンコスをスーパーボウルに導いた(シーホークスに敗れる)が、もしブレイディが同じ快挙を1年目で成し遂げるとするとNFLの歴史がもう一つ塗り替えられることになる。それはスーパーボウルには開催地のホームとするチームが出場できないというジンクスの打破だ。2020年シーズンのスーパーボウルの舞台はバッカニアーズのホーム球場、レイモンド・ジェームズスタジアムである。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。