新CBAで何が変わるか
2020年03月23日(月) 07:04現地15日、NFL選手会(NFLPA)はすでにチームオーナーが承認していた新労使協定(CBA)案に対する全選手を対象とした投票結果を公表した。結果は承認が1,019票、反対が959票で、僅差で新CBA案が承認されることとなった。これによりこれまでのCBAは1年を残して、3月17日いっぱいで破棄され、3月18日の新年度から新CBAが発効となっている。新CBAについてオーナー側、NFLPAの双方に早期破棄、オプトアウトの権利はなく、新CBAは2030年度まで有効となる。
では新CBAでどんな変化が起こるかを見ていこう。最も大きいのはレギュラーシーズンが17試合に増えるのが確実なことだ。オーナー側は2021年から2023年の間に17試合制を導入する権利を持つ。現在、同時並行的に行われていると見られるテレビ放映権交渉の結果次第だが、おそらく2021年から17試合制が導入される可能性が高い。17試合制になるとプレシーズンゲームがこれまでの4試合から3試合に減らされるが、3試合目の後にバイウイークが設けられる。開幕はこれまでどおり9月第2週の週末のままだ。
さらにプレーオフが各カンファレンス6チームから7チームへと増加する。これは2020年シーズンから導入される予定だ。ワイルドカードプレーオフは各カンファレンス3試合となり、ファーストラウンドバイのアドバンテージを受けられるのは第1シードのチームだけとなる。このプレーオフ進出チームが2チーム増えることで1億5,000万ドルも収益がアップすると見られているのだ。
プレーオフ拡大、17試合制導入でリーグの収益が増えるのは確実で、その選手への分配率についても新CBAでは定められている。選手への総年俸額の上限を定めたサラリーキャップについて、2020年は総収益の47%で、チームあたり1億9,820万ドルとなっている。これが2021年には最低48%にまで増加する。さらに新たなテレビ放映契約が結ばれ、テレビネットワークからの収益が60%増加した場合、収益分配率48.5%に、120%以上増加すると48.8%にまで増えるのだ。
また最低年俸も増額される。実は約6割の選手は最低年俸で契約しており、この増加による影響は大きい。承認票が過半数を得た要因の一つといえるだろう。2019年1年未満のキャリアの選手の最低年俸は51万ドルだったが、2020年は61万ドルとなる。さらにその後に徐々に増額され、2030年には106万5,000になる予定だ。1年の経験がある選手は今年67万5,000ドルに、7年ないし9年の選手は81万ドル、10年以上の選手は91万ドルとなっている。
現在、長期契約を結んでいる選手に対しては17試合制が導入されると年俸の17分の1にあたるボーナスが支払われる。
ロースターでは試合当日の出場可能なアクティブロスターの人数は46人から48人への増加となった。ただし、追加の選手の1人は攻撃ラインの選手と限定されている。プラクティススクワッド(練習生)の人数も2020年と2021年はこれまでの10人から12人に増やされ、2022年以降は14人となる。
トレーニングキャンプについては制限が厳しくなった。キャンプでパッドを付けた練習は16回まで、連続では3回までに制限された。以前は全体で28回、連続制限はなかった。またキャンプの最初の5日は「順応期間」とされ選手は1日あたり4時間までしかフィールドにいられず、2時間半以上の練習は行えない。
多くの州で医療目的や嗜好品としての解禁が進む大麻に対する対応も変更された。これまで行われてきたマリファナ陽性検査は廃止され、トレーニングキャンプの序盤2週間にのみ検査が行われ、陽性の判断値も引き上げられる。さらに陽性となった場合も出場停止などの処分ではなく、薬物プログラムへの参加となる。医療専門家による委員会が治療の必要性を判断するという。
能力向上のための薬物違反に対しても処分が変更された。利尿剤などの使用に対しては1回目が2試合、2回目が5試合の出場停止となる。ステロイドの使用は1回目が6試合、2回目が17試合の出場停止だ。
やはり多くの州で合法化が進むスポーツ賭博についても主に収益配分について初めて条項化されている。試合や選手のパフォーマンスを対象にした賭けによる収益、賭博関連のスポンサー収益、スタジアム内、周辺で行われる賭けの収益、関連アプリからの収益が分配対象とされた。
ウェアラブル機器や光学機器によるデータ採取と分析にも言及されている。こうしたデータは個人情報にあたり、無断使用はプライバシーの侵害、さらには契約交渉に使われる可能性があるからだ。新CBAではNFLとNFLPA、双方の代表で構成される「共同センサー委員会」を設立することが定められている。収集するデータと使用について全てレビューし、ガイドラインを作成するという。ただこの課題は以前から指摘されていたものの今回の交渉では落としどころが見つからず、委員会設立に留まった印象を受ける。
このように新CBAの中身を見ていくと、何が課題でどんな決断がくだされたかがわかるのである。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。