コラム

紆余曲折ありながらも複数のチームで進む新スタジアム構想

2022年04月18日(月) 10:36

バッファロー・ビルズの本拠、ハイマーク・スタジアム【AP Photo/Joshua Bessex】

人気の拡大、ビジネスの拡大が続くNFL。複数のチームで本拠地スタジアムを新たに建設する動きが出ている。ただ、どこも紆余曲折を経験しているようだ。

現地3月28日に新スタジアムの建設がほぼ決定したのがビルズだ。ニューヨーク州とエリー郡の自治体がスタジアムの建設費用として8億5,000万ドル(約1,076億1,043万円)の公的資金を提供することで、ビルズと30年間の契約を締結したのである。州は6億ドル(約759億6,090万円)、郡は2億5,000万ドル(約316億)の資金を拠出する予定だという。

さらに同日、NFLのオーナー会議では、リーグのオーナー達が建設費として2億ドル(約253億2,010万円)の融資を満場一致で承認した。これに対しビルズのオーナー、テリー・ペグラとキム・ペグラは、少なくともこの融資に見合う額を支払う必要がある。

ビルズの現本拠地、ハイマーク・スタジアムは1973年竣工と古く、近年ペグラ夫妻は移転をちらつかせながら新スタジアムの建設とその建設費の一部負担を地元自治体と交渉してきた。バッファロー域内でも複数の候補地が示されたりもしていた。長期にわたる交渉がようやく実を結んだ形である。

新たなスタジアムはハイマーク・スタジアムの隣接地に建設され、6万2,000席収容のオープンエアー・スタジアムとなり、2026年シーズンにオープン予定だ。

まだ州議会が補助金を承認する必要があるものの、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が計画を支持しているため、承認は確実視されている。

一方、州議会に対し州知事が新スタジアム建設のための公的資金5億ドル(約633億7,250万円)の起債を求めているのがタイタンズである。

タイタンズは1月、本拠地日産スタジアム改修とその周辺地区の再開発計画を発表。その費用として最大6億ドル、チームと個人投資家が3億ドル(約380億2,365万円)を負担し、公的資金3億ドルを要求した。

が、回収コストの上昇によって、その後新スタジアム建設に軸足を移している。ただ新スタジアムの建設費は20億ドル(約2,534億5,900万円)に達するだろうと見られている。州政府が資金負担する場合、オープンエアーではなく、ドーム型のスタジアムにする必要があるという。

タイタンズはスタジアムを改修した場合少なくとも2,500万ドル(約31億6,824万円)を負担するが、新スタジアム建設の負担費用はその倍以上になると見られている。それでも長期的には新スタジアムの方が財務的に良いと判断しているようだ。

新スタジアム建設に動いているものの、まだ場所が決定しておらず、チームや自治体との間で駆け引きが続いているチームもある。

コマンダーズは現本拠地フェデックス・フィールドが1997年竣工で、ダン・スナイダー・オーナーは新スタジアム建設を長年訴えてきた。

バージニア州政府は12億ドル(約1,520億7,420万円)の公的資金提供により新スタジアムを誘致しようとしている。これに対し、フェデックス・フィールドのあるメリーランド州はスタジアムの跡地に新スタジアムと周辺開発を数億ドルの公的資金で行うことを提案している状況だ。ただし、メリーランド州のラリー・ホーガン知事は「われわれは、彼らをめぐって入札合戦をするつもりはない」とも述べている。

さらにコマンダーズが以前本拠地としていたRFKスタジアムのあるワシントン特別区のミュリエル・バウザー市長はチームを取り戻したいと発言。地元選出のエレノア・ホームズ・ノートン下院議員は、RFKスタジアムの土地を市に売却するための連邦法案を提出する予定だとしている。

チームと地元市の間で駆け引きをしているのがベアーズだ。ベアーズは1971年以来シカゴ市中心部に建つソルジャー・フィールドを本拠としてきた。にもかかわらず昨年11月ベアーズはシカゴの郊外に位置するアーリントンハイツの競馬場跡地を購入する契約を結んだと発表したのである。

その土地に現行の6万1,500人より大型のスタジアムを中心とした複合施設を建設したい意向だ。これに対し、シカゴ市はチームの引き留めを強く図っている。ただベアーズとしてはスタジアム敷地内にスポーツベッティングの施設を設けることを市が認めないことに大きな不満を抱いている模様で、先は読めない。

またチーフスは現在ミズーリ州カンザスシティに建つアローヘッド・スタジアムを本拠としているが、やはり新たなスタジアムを望んでいる。これに対し、隣接するカンザス州が新スタジアム建設に名乗りを挙げ、これを阻止したいミズーリ州といわばカンザスの名をかけた争いになっているのである。

ビジネスを発展させるためには最新設備を備えたスタジアムが欲しくなるのは当然でもある。ただ規模が大きいだけになかなかすんなりとはいかないようだ。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。