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カーディナル戦で脳しんとうから復帰のドルフィンズQBタゴヴァイロア、意識を変えたプレーを披露

2024年10月28日(月) 13:36


マイアミ・ドルフィンズのトゥア・タゴヴァイロア【AP Photo/Rebecca Blackwell】

マイアミ・ドルフィンズのクオーターバック(QB)トゥア・タゴヴァイロアが第3クオーターで見せたスクランブルこそ、この2カ月で彼の目標や周囲の期待がどれほど変わったかを象徴するものだった。

タゴヴァイロアは高校時代から一貫してランを武器としてきた選手であり、それが彼の強みの一つとなってきた。しかし、シーズン第2週の試合で、いつも通りのランプレーの最中にタゴヴァイロアはプロ入り後3度目となる脳しんとうに見舞われた。この時、タゴヴァイロアは反射的に頭と肩を低く構え、バッファロー・ビルズのセーフティ(S)ダマー・ハムリンに突進。衝突自体は決して激しいものではなかったが、その後の光景が一層不安をかき立てることとなった。タゴヴァイロアは地面に倒れ込んでフェンシングのポーズ(仰向けで腕が上に真っすぐ伸びた状態)を取りながら、意識を失ったのだ。

現地27日(日)に行われたアリゾナ・カーディナルスとの試合で復帰したタゴヴァイロアは、宣言通りにこれまでの教訓を活かし、ドルフィンズが期待する慎重なプレーを見せた。この日、タゴヴァイロアは38回中28回のパスを成功させて、234ヤードとタッチダウン1回を記録。ディープパスを狙うためにボールを長くキープしていたときでさえ、接触をうまく避けたため、ほとんど触られていないと言っても過言ではない。カーディナルスのQBヒットはわずか3回、サックは1回にとどまった。パスプレーではリリースをさらに早め、サイドライン際で周囲をヒヤリとさせた唯一のランもスライディングで終わらせている。

その瞬間、観客は歓声を上げて総立ちになり、タゴヴァイロアの名前を連呼した。タゴヴァイロアがヤードをさらに稼ぐために、迫りくる守備陣に突っ込むのではないかと、誰もが固唾を飲んでプレーの行方を見守った。しかしその予想に反して、タゴヴァイロアは13ヤードを確保し、立ち上がると地面を指差しながら大きく息を吐いた。

「あれは最高にクールだと思った。誰だってそう思うだろう」とタゴヴァイロアは試合後にコメントしている。

タゴヴァイロアは大きなヒットを避けるために、より慎重に判断することを実践しており、今後もその意識を持ち続ける必要があると語った。5週間の休養期間の中で、自らの判断がチームに与える影響について深く考え抜いたタゴヴァイロアの目標は変わっていない。

「ヒーローになろうとしないことだ」とタゴヴァイロアは言う。

カーディナルスに28対27で敗れた試合はドルフィンズにとって痛手となり、これで戦績は2勝5敗となった。勢いの強いスナップがタゴヴァイロアのファンブルを招き、セーフティにつながるシーンもあり、タゴヴァイロアは自分がキャッチするべきだったと話している。しかし、最大の敗因は、QBカイラー・マレーを抑えきれなかったディフェンスと言えよう。

タゴヴァイロアに対する懸念が完全に払拭されたわけではない。NFLにおける脳しんとう問題の象徴的な存在になりつつあることに苛立ちを覚えるタゴヴァイロアだが、今後もプレーを続ける限り、ハムリンとの衝突のような接触は、偶発的であっても避けがたいだろう。それでもタゴヴァイロア自身は、プレーに影響が出たり感覚が鈍ったりすることは一切ないと語っている。故障者リザーブ(IR)に置かれていた5週間の間も、試合に出るつもりで準備を重ねてきたという。

ヘッドコーチ(HC)マイク・マクダニエルの考えでは、オフェンシブラインやレシーバー陣は、パスプロテクションやルート取りに対して一層の責任感を持ち、タゴヴァイロアがヒットされないようにしていたという。しかし、マクダニエルHCはタゴヴァイロアを守ることを最優先にしてプレーコールを変えたわけではないと話している。ボールを進めて得点すること以外を考え始めたら、コーチとして選手に正しい指示は出せないとも述べた。

ドルフィンズのディフェンシブエンド(DE)カライス・キャンベルは、タゴヴァイロアがサイドラインへ駆け抜ける様子を見ながら「スライドしてくれ」と祈るように見守っていたと話しており、マクダニエルHCはタゴヴァイロアがスライディングを選ぶだろうと確信していたという。タゴヴァイロアが迷わずスライディングを選択したことに、マクダニエルHCは大きな喜びを感じたようだ。

「ディフェンダーに突っ込もうとせず、冷静にプレーしているとき、彼は健康でいる確率が高くなる」とマクダニエルHCは語っている。

マクダニエルHCは、タゴヴァイロアの脳しんとうに対して慎重かつ配慮をもって対応してきた。チームがタゴヴァイロアを故障者リストに入れる前から、復帰時期に関して具体的な期限を設けないよう気を配り、QBへの余計なプレッシャーを避けようとしていた。そして今、マクダニエルHCはタゴヴァイロアを無地にフィールドへと復帰させることに成功している。復帰できてほっとしているかと尋ねられた際、マクダニエルHCは次のように答えている。

「ほっとしたとは言わない。そう言うと、私が不安だったと暗に示すことになるからね。フットボールはフットボールだ。選手が実行できるベストなプランを組み立てることがコーチの役目で、成功へ導くための環境を整えるのもその一環だ。彼がフィールド全体をしっかり見渡せて、プロテクションも機能していれば、素晴らしいプレーができる」

不安要素が解消されれば、タゴヴァイロアがドルフィンズにとって欠かせない存在であることは間違いない。タゴヴァイロアが離脱して以降、オフェンスは不振に陥り、シーズン第2週以降の得点力やパスオフェンスでリーグ最下位に沈んでいた。過去5試合ではいずれも15点以下に抑えられている。タゴヴァイロアがオフェンスにもたらす影響力は、日曜日の試合の最初のドライブから際立っていた。ドルフィンズは今シーズン初めて1本目のドライブでタッチダウンを決め、サードダウンも15回中11回を成功させた。最終的には今季最多得点を記録している。

当然、タゴヴァイロアがドルフィンズのすべての問題を解決する救世主ではないという、先週のマクダニエルHCの指摘は正しかった。ドルフィンズのディフェンスは直近2試合で10点と16点に抑えていたが、この試合ではカーディナルスに389ヤードを許し、今季3番目に多い失点を喫している。来週にはビルズとの厳しい一戦が控えており、窮地に追い込まれている。

それでもなお、ドルフィンズが現在も未来も勝機を見出すには、タゴヴァイロアの存在が欠かせないのは明白だ。タゴヴァイロア自身も、フットボールでの未来を切り開く決意を固めている。あとは、それに必要なプレーを続けていくだけだ。

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