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逆転勝利まであと一歩の巻き返しを見せたバッカニアーズQBブレイディ

2022年01月24日(月) 15:19

タンパベイ・バッカニアーズのトム・ブレイディ【AP Photo/Mark LoMoglio】

30対27でタンパベイ・バッカニアーズを制したロサンゼルス・ラムズがホームに戻ってNFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)チャンピオンシップゲームに臨む。対戦相手としてやってくるのはサンフランシスコ・49ersであり、ラムズはこの試合で今季の自分たちを定義づけてきた疑問に答えるチャンスを手にするだろう。

彼らが将来を抵当に入れてまで手にしたスターにはそれだけの価値があったのか? 彼らは、それに十分な見返りを得たのか?

大崩壊の瀬戸際にいながらも、度胸が試される42秒のラストドライブを決勝点となるフィールドゴールにつなげたラムズ。その様子からは、どうやらバッカニアーズが昨年に用いた手法を、うまく再現できたようだ。それは、サラリーキャップとロッカールームの制限上で可能なかぎりのスターをつぎ込み、急加速するというやり方だ。

ラムズのメンバーはフィールドを去る際に「ホームに戻るぜ!」と叫んでいた。

ブレイディとバッカニアーズも自宅へと戻る。彼らにまとわりつく疑問はより苦痛に満ち、解明するのに長い時間が必要だろう。今季のバッカニアーズは、前シーズンの先発メンバーが全員戻っているという珍しいチームだった。しかし、昨年がワクワクさせるようなシーズンだったのとは裏腹に、今季はケガや議論を呼んだリリースなどの中で苦しんでいる。一部のファンたちは、試合が終わる前、熱い巻き返しが始まる前から、渋滞をさけるべく会場を後にしていた。もしかしたらブレイディのラストプレーになるかもしれないものを見届けずに。おそらく、彼らは数か月後に再びブレイディを見ることになると、確信していたのだろう。

だが、そんなことをすべきではなかったのかもしれない。

「シーズンの最後に負けるのは、いつだってきつい」とブレイディは日曜日の敗戦後に語っている。

「1つのチーム、1年。その後は、決して前と同じじゃない。そういう試合の一つでも落とすのはいい気分じゃない。すべてのステージで負けたことはある。最後に負けるのが最悪だ」

ブレイディは再び魅力的な巻き返しを可能にしたが、勝利にまでは至らなかった。そういった戦いを終えたブレイディには、白黒がついていない。灰色の状態だ。試合終了から数分後、ブレイディは自身の将来についてあいまいに語っている。

「それについてはあまり考えていない。日々やっていって、自分たちがどこにいるかを見てみる。正直な気持ちとして、僕はこの試合のことを考えていて、今から5分以上前のことは何も考えていないんだ」

初めてスポーツマンらしからぬ振る舞いによるペナルティを取られたブレイディは、また新たな“キャリア初”を記録した。一方で、試合終盤の巻き返しはこれまでにも繰り返されてきたことだ。24ポイントのリードを築いて第3クオーターを迎えたラムズだが、4度のファンブルのすべてをバッカニアーズにリカバーされ、第4クオーターには47ヤードのフィールドゴールに失敗。バッカニアーズ攻撃陣はこの日の多くの場面でブレイディを守れないでいたものの、これを機に火花の散るような攻勢に転じる。レナード・フォーネットが第4ダウンで9ヤードを走ってタッチダウンを決めたとき――まだ駐車場にたどり着いていなかったファンは急いで引き返した――、それは馴染みある展開に思えた。これこそ、ブレイディが20年にわたって成し遂げてきたことだ。仮にブレイディのラストゲームになるとしたら、こういった展開がふさわしい。

しかしながら、まれなことにこの巻き返しが結果として実ることはなかった。ブレイディがサイドラインで、他のクオーターバックが素晴らしいプレーで相手チームを勝利に導くのを見ていたという図は、ブレイディ引退のイメージにそぐわない。だが、7度のスーパーボウル覇者であり、圧倒的な一貫性でチームを14回のカンファレンスチャンピオンシップ戦に導いてきたブレイディは、見守るしかない状況で試合を終えていた。

最近になるまで、ブレイディが来季に戻ってくることはほぼ保証されていた。しかし、バッカニアーズのヘッドコーチ(HC)であるブルース・エリアンスは日曜夜、ブレイディについて注意深く発言している。

ブレイディ自身は以前、自分がうまくプレーできなくなったときに引退すると話していた。今季のブレイディはMVP級のシーズンをまとめあげており、ワイドレシーバー(WR)マイク・エバンスはブレイディをこれまでで最高の選手かつ最高のリーダーの一人だと称賛している。

「俺たちは彼に戻ってきてもらわなきゃならない。彼は悪くない」とエバンスは話した。

ブレイディと契約したとき、バッカニアーズは彼らのQBを満足させられる選手を集め始めた。バッカニアーズがこの時描いた青写真に、今のラムズは従っている。スローダウンすることなく、急速なチーム構成を行ったのだ。必要とされるあらゆる手段をとって自分たちが信じるクオーターバックを獲得し、できる限り早く才能をそろえて前進していく。バッカニアーズは昨年、その試みをロンバルディトロフィー獲得につなげた。今年のラムズにも、それが可能かもしれない。

バッカニアーズのチャンピオンシップは、ブレイディが証明する必要がある最新のものとしてまだ残っている。40代を迎えたブレイディの時間がもう終わったとニューイングランド・ペイトリオッツが思ったとき、そうは思わなかったブレイディは自分に十分なプレーが可能であることを示した。ブレイディの言葉によれば、今もフィジカルは素晴らしく、45歳になる来季もおそらくプレーするだろう。驚くことではないが、日曜日の試合が終わったとき、ブレイディの感触に嘘偽りがないことが見て取れた。試合後、カメラに追われるブレイディはきびきびと歩き、ラムズのベテラン選手であるディフェンシブバック(DB)エリック・ウェドルやワイドレシーバー(WR)オデル・ベッカムと言葉を交わしていた。そこには自分の時間が終わったと思っているクオーターバックが見せるたどたどしい歩みや、涙はなかった。

日曜日にブレイディを苦しめた面々の一人であるラムズのアウトサイドラインバッカー(OLB)ボン・ミラーは、これがブレイディのラストゲームだった可能性について問われて、次のように答えている。

「いや、あれはトム・ブレイディの終わりにはならない」と語ったミラーは、ブレイディがあまりにも勝ちすぎていることを嫌う理由は十分にあるものの、実際はそう思っていないとつけ加えた。

もしかしたら、ミラーは他の人々と同様、口にすることでそれを現実にしようとしたのかもしれない。もしかしたらブレイディは、自ら同じ結論に達するかもしれない。ブレイディはそのキャリアでは数少ない体験ながらも、自らの基準に届かなかった。

彼のプレーは、まだ第一線のレベルを保っている。

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