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オフシーズンにラムズに引退届を提出していたアーロン・ドナルド

2022年09月09日(金) 13:09


バッファロー・ビルズのジョシュ・アレンとロサンゼルス・ラムズのアーロン・ドナルド【AP Photo/Ashley Landis】

オフシーズン後半、正確には5月9日には、アーロン・ドナルドは決心したようだった。第56回スーパーボウルの頃から噂が飛び交っていたが、本人の中で確信できたのだ。

史上最強のディフェンシブタックル(DT)の代理人が、ドナルドが唯一プレーしたチーム、ロサンゼルス・ラムズに手紙を送り、引退の決意を伝えていたと、事情を知る複数の情報筋が語っている。

その手紙は送られて以来報道されず秘密に保たれており、(代理人が所属する)『Athlete First(アスリート・ファースト)』のレターヘッドで、NFLコミッショナーのロジャー・グッデルに宛てて書かれたものだった。ドナルドが5月9日付で引退することをラムズに伝えたと書かれているだけであり、リーグ事務局に送るようにとの指示が添えられていた。

しかし、その手紙がリーグに送られることはなかった。

次に起こったことは、ドナルドがスーパーボウルの王者としてもう2年間プレーするために、大規模契約の調整を開始したことであった。ドナルドは2022年NFLレギュラーシーズン開幕戦のバッファロー・ビルズ戦に出場している。

5月の時点では、31歳を目前にして当初の6年1億3,600万ドル(約195億3,830万円)の延長契約を3年残していたドナルドの契約交渉は行き詰まっていた。アスリート・ファーストの代理人トッド・フランスは、大幅な年俸増額はあっても契約年数を増やさないよう求めていた。年俸の増額はディフェンスの選手には決して起こらないことで、オフェンスの選手の最大の例としては、当時ニューイングランド・ペイトリオッツのクオーターバック(QB)トム・ブレイディが2019年に800万ドル(約11億4,931万円)の増額を受けたことが挙げられる。

ドナルドと彼の陣営は、800万ドルよりもはるかに大きな額を求めていた。

関係者の見解からすると契約交渉は厳しいものに見え、ドナルドはNFLでプレーすることを終えたように思えた。彼はプロボウルに8回、オールプロに7回選出され、年間最優秀守備選手賞を3回、そしてスーパーボウルのタイトルと、成し遂げられることはすべて成し遂げていたのだ。

そこでラムズに手紙を送り、ドナルドは心穏やかに決断を下した。ただし、留意しておくべき唯一の点として、ラムズの幹部とドナルド、そして代理人は、契約について話し合うために翌日に『Zoom(ズーム)』会議を予定していた。手紙は、彼らには何もできないことを確認するためだけに、その会議まで留め置かれたままだった。一方、ラムズはドナルドの決断に関係なく、いつ、どのように彼の輝かしいキャリアを適切に称えるかを知りたいというだけで、限りなくドナルドに敬意を表していた。

キャリアの終え方を話し合う代わりに、会議ではドナルドの代理人とラムズとの間で契約に関して少し進展が見られ、会議がもう一度予定された。そして、もう一回、さらにもう一回と会議が行われたのだ。そして突然、ありえない取引が成立するのではないかと、両者は期待を持つようになった。

また、6月1日という重要な期限が迫っていた。ドナルドの引退届がその時点でリーグに提出されていれば、ラムズには2022年に2,150万ドル(約30億8,838万円)のサラリーキャップが発生することになっていた。引退届が6月1日以降であれば、2,150万ドルがわずか900万ドル(12億9,281万円)になってしまうため、このタイミングは重要だった。

ドナルドの引退はかなり現実的だった。しかし、両者にとって話し合いを続けることは意味があった。ドナルドの手紙に端を発し、それが戦略的であれ現実的であれ、当事者には新しい契約を結ぶための時間と方法があったのだ。

ドナルドは本気で引退を考えていたのだろうか。ラムズは手紙をリーグに送っていただろうか。残り3年の選手に何らかのテコ入れをすることを狙った交渉術だったのだろうか。

それは誰にも分からないだろう。しかし、ドナルドの状況は各方面から十分な本気度で扱われ、最終的に6月6日に契約が成立した。

契約年数を増やすことなく、3年間で4,000万ドル(約57億4,794万円)の増額ということは、ドナルドは3年間で9,500万ドル(約136億5,135万円)を得ることになる。平均年俸3,160万ドル(約45億4,087万円)はディフェンス選手全体の相場をリセットするほどのものだが、平均年俸だけを見ていても、この前代未聞の4,000万ドル引き上げの全貌(ぜんぼう)は分からないだろう。

基本的には、保証金のある2年間は王者へコミットメントし、理にかなう状況であれば3年目をプレーする機会もある。だから、ドナルドは引退しない。

引退の代わりに、開幕戦でプレーしたのだ。

【AK】