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24シーズンを共に過ごしたベリチックHCとペイトリオッツが離別することで双方同意

2024年01月12日(金) 00:29

ニューイングランド・ペイトリオッツのヘッドコーチ(HC)ビル・ベリチック【AP Photo/Michael Dwyer】

24シーズンを一緒に戦ってきたヘッドコーチ(HC)のビル・ベリチックとニューイングランド・ペイトリオッツが双方同意の下、離別することになったと現地11日(木)、『NFL Network(NFLネットワーク)』のイアン・ラポポートとトム・ペリセロが情報を伝えた。

フォックスボロでの24シーズンでベリチックはNFL史上最も輝かしい王朝の指揮官となった。ベリチックの指揮の下、ペイトリオッツはチームとしてNFL史上最多タイとなる6度のスーパーボウル制覇を成し遂げ、9回のスーパーボウル出場を果たした。ヘッドコーチとしてベリチックはペイトリオッツ(11回)を除くどのフランチャイズよりも多くスーパーボウルに出場したことになる。

24シーズンでペイトリオッツはレギュラーシーズンで266勝120敗を記録し、AFC(アメリカン・フットボール・カンファレンス)東地区タイトルを17回獲得。2009年から2019年はNFLの歴史で最長となる11連覇を成し遂げた。17回の地区タイトル獲得というのは1人のヘッドコーチが1つのクラブで達成した中で最も多く、2位のトム・ランドリー(12回)より5回も多い。

71歳のベリチックはプレーオフを含めて296勝を挙げており、これは1人のヘッドコーチが1つのフランチャイズで挙げた数としては、ベアーズのジョージ・ハラス(324勝)に次いでNFLの歴史で2番目に多い。

チーム内部からの後継者候補として有力視されているのは、数年前からうわさのあったペイトリオッツのインサイドラインバッカーコーチを務めるジェロッド・メイヨだとラポポートは伝えている。ベリチックの行き先としては、空席となったアトランタ・ファルコンズのヘッドコーチの仕事が選択肢になるかもしれないとラポポートは言う。

1つのチームで20シーズン以上過ごしたヘッドコーチはベリチックを含めて7人いる。他の6人はジョージ・ハラス(40シーズン)、カーリー・ランボー(29シーズン)、トム・ランドリー(29シーズン)、ドン・シュラ(26シーズン)、スティーブン・オーウェン(24シーズン)、チャック・ノル(23シーズン)で、その全員が殿堂入りしている。

ベリチックの下でペイトリオッツはポストシーズンで前例のない成功を収めた。プレーオフに19回進出して30勝12敗の記録を持つ。ポストシーズンで30勝を挙げたコーチはNFLの歴史上ベリチックをおいて他にいない。6度のスーパーボウル制覇というのも1人のヘッドコーチとしてNFL史上最多だ。

近代で最も偉大なコーチと称されるベリチックだが、NFL年間最優秀コーチに3回しか選ばれていないというのは、その素晴らしさがしばしば当たり前のことのようにとらえられてきたことの表れだろう。他のフランチャイズがその時々で浮き沈みを繰り返す中、ペイトリオッツは20年以上にわたって最も尊敬されるフランチャイズの1つとしてあり続けた。

NFLにペイトリオッツ流――他の人々が無残に採り損なったアプローチ――をもたらした人物、記者会見でのぶっきらぼうな対応、チャンピオンシップ優勝後も“休みなどない!”と叫ぶ職人気質は、ベリチックの在任中、ニューイングランドだけでなくNFL全体に強い印象を残した。

ベリチックのペイトリオッツ時代は、奇妙なスタートを切っていた。気まずい記者会見の前、ベリチックがナプキンに退任する旨を記してニューヨーク・ジェッツに突きつけたのは有名な話だ。後にジェッツとペイトリオッツはドラフト1巡目を用いたトレードをまとめ、ベリチックのニューイングランドでの時が始まった。

ベリチックが就任した最初のシーズンである2000年、ペイトリオッツの戦績は5勝11敗。そこから、このフランチャイズは王朝を築き上げていく

ペイトリオッツでの2年目に、ベリチックHCは誰もが知るあの重大な決断を下す。2年目のクオーターバックであるトム・ブレイディをチームの主軸に据えたのだ。ブレイディはペイトリオッツをチーム初のスーパーボウルタイトルへと導いた。ベリチックが第36回スーパーボウルでランニングバック(RB)マーシャル・フォークと“芝上で最高のショー”を相手に敷いたディフェンスは、NFL史上、最も卓越した守備プランの一つに挙げられる。

息の詰まるようなベリチックのディフェンスとブレイディの勇猛なプレーによって、ペイトリオッツは2003年と2004年に連続でスーパーボウルを制覇。ロンバルディトロフィーを連続で持ち帰った最後のチームになっている。

ペイトリオッツはベリチックの指揮下で何度か変革を遂げ、初期の守備重視のチームから、ブレイディ&ワイドレシーバー(WR)ランディ・モスによる爆発的な攻撃力を誇るチームに変化。タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーやWRジュリアン・エデルマンらの存在も相まって、3年連続でAFCチャンピオンシップ優勝を遂げている(2016年から2018年)。2003年から2019年でニューイングランドがポストシーズンに進めなかったのは2008年のみであり、このときはブレイディがシーズン第1週で膝を負傷していた。ペイトリオッツはそれでも、QBマット・キャッセルを司令塔に11勝している。

支配的な10年期を送る間、ペイトリオッツではスパイゲートからデフレートゲートまで、フィールド内外でドラマが起こった。そんな中でも、ペイトリオッツは勝利を積み上げていった。

ベリチック時代のあらゆる起伏を通じて、プレーオフという劇場で数々の名シナリオが生まれた。最初の番狂わせのタイトル獲得から、2連続のロンバルディ。レギュラーシーズン16勝0敗の記録を打ちたてた年には、スーパーボウルでニューヨーク・ジャイアンツに敗れた。そして、2度目のビッグブルーへの敗北。シアトル・シーホークスやアトランタ・ファルコンズに対する、ドラマチックな勝利。第53回スーパーボウルでの、オフェンスの天才ショーン・マクベイHCに対する巧妙な守備。

2020年にブレイディがタンパベイへと去った後でさえ、ベリチックはペイトリオッツが新人QBマック・ジョーンズと共に2021年のポストシーズンに戻ってくるのを支えている。

しかしながら、コーチと事実上のジェネラルマネジャーであるベリチックにとって、過去2年はひどく低迷したシーズンだった。ドラフトには疑問が残り、コーチングの決断はペイトリオッツを脆弱(ぜいじゃく)にしている。2021年ドラフト全体15位指名のジョーンズの苦戦は、才能の乏しいオフェンスを悪化させ、堅実なディフェンスもそれを補えなかった。

ベリチックは最後のシーズンに4勝13敗をマークしており、これはベリチックのキャリアにおいて――ニューイングランドでもクリーブランドでも――最低の数字だった。2023年まで、ペイトリオッツは1992年(この年に2勝14敗を喫したことで、チームは殿堂入りしたコーチであり、ベリチックのメンターだったビル・パーセルズを1993年にヘッドコーチとして起用した)以降で12試合を超えて敗北したことはなかった。

ニューイングランドは2023年にすべての側面で苦戦した。試合平均得点(13.9ポイント/NFL最下位タイ)とターンオーバー差(-11)で、チームは下から5位に沈んでいる。守備陣は試合平均で21.5ポイントを許しており、これはベリチック時代で3番目に悪い数字だった。

多くの別れがそうであるように、素晴らしい結末ではなかった。しかし、ベリチック時代の最良の時とはペイトリオッツがNFLの頂点にいた時であり、それはこのスポーツの歴史上、他のどのチームよりも長く続いた。

歴史は数々のスーパーボウルを、殿堂入りした選手たちを、いくつもの優勝パレードを、ぶっきらぼうな記者会見を、ロングスナップについての10分にわたる滔々(とうとう)とした解説を、忘れないだろう。歴史はベリチックのニューイングランド時代を、長く続いた王朝として記憶する。これからどんな王朝が築かれても、必ずやこの王朝と比べられることだろう。

【M/A】