コラム

新イベントから見えるプロボウル振興の試行錯誤

2016年12月19日(月) 02:30

2016年プロボウル:チーム・アービン対チーム・ライス【Aaron M. Sprecher via AP】

現地12日(月)、NFLは来年1月26日(木)に“プロボウルスキルズショーダウン”と名付けた新イベントをフロリダ州オーランドのスポーツ複合施設、ESPNワイドワールドオブスポーツコンプレックスで開催すると発表した。これはその名のとおり、1月29日に同地のキャンピングワールド・スタジアムで行われるプロボウルに関連したものである。

プロボウラーたちの能力を競う競技会

このスキルズショーダウンはAFCとNFCのプロボウル出場選手たちが運動能力を競う競技大会だ。AFCがジェローム・ベティスとレイ・ルイス、NFCがトニー・ゴンザレスとチャールズ・ウッドソンという4人のNFLレジェンドたちがキャプテンとなってチームを結成し、4チームで競う。各チームはクオーターバック(QB)、ランニングバック(RB)、ワイドレシーバー(WR)、タイトエンド(TE)、ラインメン、ラインバッカー(LB)、ディフェンシブバック(DB)で構成されるとのこと。

行われる競技は現在以下の4つが発表されている。

  • ● エピックプロボウルドッジボール:プロボウル出場選手たちによるドッジボール
  • ● パワーリレーチャレンジ:陸上競技のリレー
  • ● プレシジョンパッシング:各チーム2人の選手が動く様々な大きさ、距離の的にボールを投げて当てる
  • ● ベストハンズ:QBとWRのコンビが規定時間内にできるだけ多くのパスを通す


上記の競技を見て、プロボウラーのドッジボール? と思った方もいるかもしれない。またプレシジョンパッシングの内容に、1990年から2007年まで開催されていたQBの能力を競った番組『NFLクオーターバックチャレンジ』を思い出す方も多いのではないだろうか。NFL選手たちの実力のすごさを感じられそうではあるが、かなり奇抜な企画という印象はぬぐえない。ではなぜこんな新イベントが導入されるのか。プロボウル人気回復への新たなテコ入れ策の一環であるのは明白だ。

混迷が続くプロボウル

近年プロボウルは迷走が続いている。1980年以降、2008年までプロボウルはずっとハワイ州ホノルルのアロハ・スタジアムで、スーパーボウルが開催される翌週の日曜日に開催されてきた。常夏のリゾート地でシーズンを締めくくるお祭り気分のオールスター戦として定着したものの、ファンからは次第に飽きられ、テレビ視聴率や入場者数が落ち込むようになったのである。特にシーズンオフでケガを恐れる選手たちがプレーすることにモチベーションを見いだせず、手を抜いたプレーが頻発し、それがファンに伝わってしまったことは大きな原因となった。また、1975年にオープンしたアロハ・スタジアムなど使用施設の老朽化も問題とされた。

その打開策として2009年シーズンには会場が第44回スーパーボウルの舞台となったフロリダ州マイアミのサンライフ・スタジアム(現ハードロック・スタジアム)に移され、開催日もスーパーボウル1週間前の1月31日に組まれた。つまり、スーパーボウルに向けてNFLに関心が集まる時期に、スーパーボウルと同じ会場で開催することで人気を高めようという、もくろみだ。この大会は7万人を超す観客が集まり、一見、成功したようにも思えるが、プレーの質は低いままで、ゲーム終了時にファンは半分も残っていなかった。

スーパーボウル1週間前の開催は、本来、頂点を極めているはずのスーパーボウル出場チームの選手が不参加という大きな課題を抱えながらも定着している。また、2010年シーズンから前回まで、2014年を除いて会場はアロハ・スタジアムに戻ったが、これはこの時期に観光都市であるハワイが閑散期でプロボウルの招致に熱心なためだ。

2014年にはさらなるテコ入れ策がとられた。それまでAFC対NFCの対戦形式がとられていたが、ジェリー・ライスやディオン・サンダースといったレジェンドがチームキャプテンとなり、投票で選ばれた選手たちをドラフトしてそれぞれのチームを結成し、対戦する形式に変更されたのである。しかしながら、これも不発に終わり、今回から再びAFC対NFCの形式に戻されることが発表されている。

ディズニーと連携したオーランド開催

そして、2016年シーズンの今回はさらに大きなテコ入れが行われつつある。ホノルルとの契約終了に伴い、ブラジル・リオデジャネイロ、オーストラリア・シドニー、フロリダ州オーランド、ホノルルが開催を招致し、NFLはオーランドでの開催で複数年契約を結んだのだ。

契約の大きな要因になったと見られるのが、現在プロボウルの放映権を持つスポーツ専門局『ESPN』、さらにその親会社であるディズニーと連携した盛り上げである。スキルショーダウンが行われるESPNワイドワールド・オブ・スポーツ・コンプレックスは世界的に有名なウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内にあるのだ。

そのため、今回はプロボウルまでの1週間、プロボウルウイークにはスキルショーダウンだけでなく、テーマパーク、マジックキングダムでのプロボウル出場選手によるパレード、長距離走大会など多彩なイベントが開催される予定となっている。

依然、プレーの質の向上という点に対する根本策が見えない状況の中、ディズニーの協力による今回の新たな策の数々はプロボウル人気の復活につながるだろうか。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。