技術ベンチャー企業育成を図るNFL
2017年01月06日(金) 07:23NFLはリーグのさらなる発展を望み、新しい技術やアイデアを持つベンチャー企業を育てる動きを加速しつつある。
アイデアコンテスト“ファースト・アンド・フューチャー”
NFLは今回が2回目となるスポーツ関連技術のアイデアを複数のベンチャー企業に披露してもらい、競わせる一種のコンテスト“1st and Future(ファースト・アンド・フューチャー)”を第51回スーパーボウルの前日2月4日(土)に開催すると発表した。これはNFLがテキサス州ヒューストンにあるテキサス医療センターと提携して開催するもので、同センターが会場となる。当日は事前審査を通過した最大9社のベンチャー企業が、それぞれが持つ選手の健康と安全についてのアイデアを、審査員となるチームオーナーや同センターの役員、起業家、投資家などを前にプレゼンテーションする。
参加分野は3つに分けられており、コーチや選手間で盗聴の心配がなく、かつ安全にコミュニケーションを行うための新技術を扱う“選手との対話”、ケガの少ないトレーニング技術や装置の“トレーニングアスリート”、選手の健康と安全のための革新的なソリューションや素材の“選手を守る素材”となっている。
それぞれの分野の優勝企業に選ばれると5万ドル(約585万円)の賞金の他、翌日のスーパーボウルのチケット2枚、さらに同センターが開設しているベンチャー企業育成プログラム“TMCx”への参加が認められるとのことだ。プレゼンテーションの模様は同センターの公式サイトでライブストリーミングされる。現在、現地1月20日締切で参加企業を募集中だ。
ちなみに第1回は第50回スーパーボウルを前に2016年2月6日、カリフォルニア州のスタンフォード大学で12社のベンチャー企業が参加して行われた。優勝したのは選手の肌につけられたバイオマーカーにより、動きや環境、汗の分析、心拍数などを継続的にモニターする“モバイルヘルスラボ”を提案した『ケンゼン』と、スタジアムの位置をベースに来場者の結びつきを向上させるプラットフォームを提案した『HYP3R』、さまざまなアングルから撮影された仮想現実(VR)を楽しめるアイデアの『LiveLike』の3社だった。
マイクロソフトも“イマジンボウル”を開催
また“サイドライン・テクノロジー・スポンサー兼公式タブレットとPCオペレーション・システム”分野でのNFL公式スポンサーであり、各チームにタブレット端末“Surface(サーフェイス)”を提供している『Microsoft(マイクロソフト)』は、NFLと共に同コンテストとは異なるものの、同じくリーグ発展に向けた新技術のアイデアを募集する“イマジンボウル”を、やはり第50回スーパーボウル前の2月2日にサンフランシスコで開催してもいる。こちらも選手にセンサーを取り付け、心拍数や脱水などをモニターし、練習やコンディショニングに役立てるアイデアの“Player Metrics(プレーヤー・メトリックス)”が優勝し、賞金5万ドルとゲームチケットが贈られた。
NFL選手会も技術ベンチャー育成
こうしたスポーツ関連技術のベンチャー企業を育てようという動きはNFLにとどまらない。2,000人以上の選手が所属しているNFL選手会も12月初旬にやはりベンチャー企業育成のための組織“ワンチームコレクティブ”をスタートさせているのである。これはIT大手企業の『Intel(インテル)』やハーバード大学の研究機関“ハーバードイノベーションラボ”など6つの企業、機関と共に起ち上げたもの。
その運営委員は複数の現役、元選手から構成されているが、特に意欲を見せているのがブロンコスのオフェンシブタックル(OT)ラッセル・オクングだ。開設発表に際して「ここまで長い時間がかかった。ワンチームコレクティブはNFL選手会がビジネスとして真剣に取り組む機会となる」と話し、さらに「これは選手たちに技術企業やビジネスと良い関係を築くための大きな力となる。それがNFL選手会が参加した理由だ。選手として我々の力と基盤を拡大することを望んでいる」と語ったということだ。
オクングは2016年シーズンに先だってブロンコスに移籍した後、コロラド州デンバーとボルダーの技術ベンチャー企業に出資しており、さらに2015年にはシアトルとオクラホマで技術教育とリーダーシップ養成のチャリティ基金“グレーターファウンデーション”を設立していることが、関心を寄せる背景にあるようだ。
一見遠い関係にあるように見えるNFLと技術系ベンチャー産業だが、近年の安全と最新技術による観戦経験の向上への関心の高まりによって急速にその距離を縮めつつある。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。