上位シードチームが参戦! ディビジョナルラウンドの見どころ
2017年01月12日(木) 06:15プレーオフ1回戦にあたるワイルドカードプレーオフは4試合ともホームチームが大勝した。シード順位を基準にするなら順当な結果だが、9勝のテキサンズが12勝のレイダースを下し、10勝のパッカーズが11勝のジャイアンツを破る“下剋上”もあった。
次は1回戦がバイウイークだったカンファレンス第1、および第2シードチームが登場するディビジョナルラウンドである。4つの対戦はいずれもレギュラーシーズン中にも実現した顔合わせだ。もっとも、すべてがシーズン前半だったから、その当時の勝敗は参考にはならない。先発メンバーが大きく交代しているユニットもあり、全く違った戦いが期待できそうだ。
ワイルドカードでライオンズを一蹴したシーホークスは2013-2014年シーズンにスーパーボウルに連続出場した頃をまざまざと思い出させるような好調ぶりだった。ディフェンス陣はライオンズにタッチダウンはおろか、レッドゾーンへの進入さえ許さなかった。懸念されたランオフェンスはトーマス・ロウルズがプレーオフでの球団新となる161ヤードラッシングでリズムを作り、ポール・リチャードソンのアクロバティックなワンハンドキャッチタッチダウンなどで勢いに乗った。
いわばシーホークスの“勝利の方程式”が再構築された試合だった。こういう時のシーホークスは強い。
迎え撃つファルコンズはオールプロコンビのクオーターバック(QB)マット・ライアンとワイドレシーバー(WR)フリオ・ジョーンズのホットラインが最強の武器だ。この2人が織りなすロングパスがリーグトップの得点力を支えた。
ただし、ファルコンズオフェンスの武器はそれだけではない。レシーバー陣は移籍1年目のWRモハメド・サヌーをはじめ、ジャスティン・ハーディー、アルドリック・ロビンソン、タイトエンド(TE)レビン・トイロロなど人材が豊富で、ライアンも彼らにうまく投げ分ける。ランニングバック(RB)デボンテ・フリーマンとテビン・コールマンのランも強力だ。
やはりファルコンズオフェンス対シーホークスディフェンスの戦いになるだろう。ファルコンズはビッグプレーで一気にタッチダウンを奪うため、シーホークス得意のクロックコントロールが通用しない。可能な限り多くパントに追い込み、ドライブを止めることがシーホークスの見いだすべき勝機だ。
ファルコンズはセーフティ(S)アール・トーマスの戦列離脱で弱くなったシーホークスのディープゾーンをどれだけ攻められるかが鍵だ。執拗なパスラッシュからライアンを守るパスプロテクションが重要となる。
戦前予想ではテキサンズが16点差のアンダードッグ(不利)と、最も大きな差が開いている。正直言ってこれを覆すほどの材料は見当たらないのだが、テキサンズに付け入る隙があるとすればディフェンシブエンド(DE)ジェイデボン・クラウニーのパスラッシュだ。レイダース戦では初先発QBコナー・クックに終始プレッシャーを与え続け、攻撃のリズムを構築させなかった。
クックと違って百戦錬磨のトム・ブレイディは簡単には崩れないだろうが、彼が過去に苦しめられた試合は例外なくパスラッシュが威力を発揮している。クラウニーや今季限りで引退を発表している元ペイトリオッツのノーズタックル(NT)ビンス・ウィルフォークがスクリメージラインをコントロールしたい。
ペイトリオッツはブレイディが被インターセプト2、レーティングは112.2という驚異的な数字を残した。TEロブ・グロンカウスキーを欠くものの、WRジュリアン・エデルマン、クリス・ホーガンらの能力をうまく引き出してパスオフェンスを展開する。今季はルギャレット・ブラントが好調でランとパスのバランスがとれているのが強みだ。
QBベン・ロスリスバーガー、WRアントニオ・ブラウン、RBレベオン・ベルの“ビッグ3”がそろい踏みする初めてのポストシーズンゲームとなったドルフィンズ戦は、その威力がいかんなく発揮された。ブラウンは序盤にタッチダウンを連発し、ベルのランは止まらなかった。
ディフェンスが1試合平均368.5ヤードを許すリーグ24位のチーフスは一見ミスマッチのように見える。ところが、これは単純に距離を加算しただけの統計に過ぎない。もっと重要な数字は平均失点だ。こちらは19.4点でリーグ7位と上位に食い込む。
そして、最も注目すべきはターンオーバーのデータだ。相手からボールを奪ったテイクアウェーは33でリーグトップ。逆にボールを失ったのは17回、ターンオーバー率はプラスの16でレイダースと並ぶ1位タイだ。今季15試合の出場(プレーオフ含む)で15回のインターセプトを喫しているロスリスバーガーには脅威な存在だ。
チーフスの新人WRタイリーク・ヒルはTEトラビス・ケルシーと並ぶプレーメーカーで、スピードを生かしてキックリターンでも活躍する。彼が本領を発揮できるか否かが勝敗を分けることになるだろう。
今季カウボーイズが対戦した中では現在のパッカーズが最も恐ろしい相手だ。QBアーロン・ロジャースは完全にスランプから脱した。チームは7連勝中で、その間のロジャースは19個のタッチダウンパス成功に対して被インターセプトはゼロである。ジャイアンツ戦では2シーズンで3度目となるヘイルメリーパスも成功させている。
WRジョーディ・ネルソンが脇腹の負傷で出場が危ぶまれるが、レギュラーシーズン最終2試合に欠場したランドール・コブが復帰しており、レシーバー陣は安泰だ。
カウボーイズはQBダック・プレスコットとRBエゼキエル・エリオットの新人2人の活躍でここまで来た。新人とは言っても彼らの活躍や落ち着きぶりはベテラン並みであり、その意味で彼らをルーキーとして扱うのは過小評価だ。
その一方で、1年目だからこそ経験していない試合展開に見舞われたときに、どのように対処できるかは未知数だ。
それが顕著に表れたのが第14週のジャイアンツ戦だ。思うようにオフェンスが機能せずに終始ジャイアンツを追いかける展開。プレスコットは焦るあまりにダブルカバーのレシーバーに無理にパスを通そうとして墓穴を掘った。普段のプレスコットなら回避するはずのプレーを思わずやってしまうところに経験の浅さが露呈した。
ましてやNFL入りして初のプレーオフである。相手のパッカーズは8年連続プレーオフ出場の常連で、試合巧者だ。序盤から畳み掛けて点差をつけられてしまうと、エリオットのランも使えずにプレスコットのパスで対抗しなければならなくなる。
プレスコットはこうした試合を体験したことがない。プレーオフの重圧の中では克服するのは難しく、可能な限り避けたいシナリオだ。
逆に故障者の多いパッカーズディフェンスを序盤からランで攻略できればカウボーイズのペースとなるだろう。ボールコントロールでロジャースをサイドラインにとどめておき、自慢の強力オフェンスラインでノースサウスフットボールが実現できれば意外に楽な展開で勝利を手にすることができるかもしれない。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。