コラム

ポストシーズン開幕! バックアップQBが鍵を握るワイルドカード

2017年01月05日(木) 05:17

ヒューストン・テキサンズの本拠地NRGスタジアム【Matt Patterson via AP】

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いよいよ今季のプレーオフが始まる。今回は14年ぶりのレイダース対をはじめ、2008年以来のドルフィンズ、2011年のスーパーボウル制覇後初となるジャイアンツ、4季ぶりのファルコンズなど常連組に食い込むチームが多い。

2年ぶりに進出のカウボーイズはクオーターバック(QB)ダック・プレスコットとランニングバック(RB)エゼキエル・エリオットの2人の新人がチームをけん引し、これも今年のポストシーズンにフレッシュな彩りを与える。

さて、ポストシーズンの皮切りとなるワイルドカードは各カンファレンスの第3シードが第6シードを、第4シードが第5シードをそれぞれホームに迎えて行われる。このポストシーズン1回戦で注目されるのはバックアップQBだ。不幸にして先発QBが戦列を離れてしまったチームがこの重要な局面をいかに乗り切るか。

AFC レイダース(第5シード、12勝4敗)@テキサンズ(第4シード、9勝7敗)

ポストシーズン開幕戦となるレイダース対テキサンズ戦はまさにバックアップQBが鍵を握る。レイダースは今季の躍進の最大の立役者であったQBデレック・カーが右脚脛(すね)の骨折で今季絶望となり、最終週のブロンコス戦はマット・マグロインが3年ぶりにスターターを務めた。しかし、そのマグロインも肩を負傷して退場。テキサンズ戦に間に合うかは不明だ。

マグロインが出場不可能の場合は新人のコナー・クックが先発することになる。クックはブロンコス戦に途中出場して21試投14回成功の150ヤードゲイン、1タッチダウンに対し、1被インターセプトだった。ブロンコスの強力な守備を相手にまずまずの出来という見方もできるが、NFLではプレーオフで先発デビューを果たしたQBは過去に前例がないという。ただでさえ重圧のかかるプレーオフだ。クックが背負う責任はあまりに大きい。

一方のテキサンズもQBに難を抱える。オフに7,200万ドルもの契約で招へいしたブロック・オズワイラーは不振のためにベンチに下げられ、トム・サベージが最終2試合に先発した。ところがサベージは最終戦のタイタンズ戦で脳震とうを患い治療中だ。テキサンズはすでにオズワイラーを先発に戻すことを発表している。

厳密に言えばオズワイラーはバックアップQBではないのだが、一度は先発の座を奪われた身だ。不安は隠せない。オズワイラーは昨年、ブロンコスでプレーオフを経験してはいるが、ペイトン・マニングが全試合に先発したために自身の出場はない。ターンオーバーを奪うことが得意なレイダース相手にインターセプトは致命的となるだろう。

NFC ライオンズ(第6シード、9勝7敗)@シーホークス(第3シード、10勝5敗1分)

NFCのプレーオフ初戦ではライオンズがシーホークスの本拠地センチュリーリンク・フィールドに乗り込む。ライオンズは3連敗でシーズンを終えるなど調子は下降気味だ。QBマッシュー・スタッフォードが右手中指を脱臼してからはパスの精度が鈍り、それが戦力に大きなダメージを与えている。

スタッフォードは今季24タッチダウンパス成功に対し、被インターセプトは10で、故障でわずか3試合の出場に終わった2010年を除けばキャリア最少である。もっとも、脱臼後は3タッチダウンに対して5インターセプトと、ケガの影響は深刻だ。

シーホークスは5年連続の2桁勝利でプレーオフ出場。12月から1月にかけての戦い方を熟知しており、常連の強みをいかんなく発揮している。

そんなシーホークスの弱点はランオフェンスだ。RBマーション・リンチが引退した穴はやはり大きく、特に今季最終3試合でのランによる1試合平均獲得距離はわずか79ヤード。ディフェンスの強いチームにはボールコントロールが可能なランオフェンスがあってはじめて勝利の方程式が完成する。昨季のように終盤のリードを守って勝ちきることの少ないシーホークスにとって、第4クオーターの逆転劇でNFL新記録(9試合)を樹立したライオンズは侮れない相手だ。

AFC ドルフィンズ(第6シード、10勝6敗)@スティーラーズ(第3シード、11勝5敗)

ドルフィンズ対スティーラーズ戦は第6週のリマッチだ。ドルフィンズがアップセットしたこの試合は両チームのターニングポイントになった。

この時点で1勝4敗だったドルフィンズはスティーラーズを破ったことで勢いづき、その後8勝2敗で8年ぶりのポストシーズンへの切符を手にしている。逆に4勝1敗だったスティーラーズはここから3年ぶりの4連敗を喫して一時は負け越しに転落した。

最終的にスティーラーズは7連勝でシーズンを終え、現在最も勢いのあるチームのひとつになったが、この敗戦のリベンジへの思いは強い。そのドルフィンズ戦で故障したQBベン・ロスリスバーガーを始め、WRアントニオ・ブラウン、今回が初のプレーオフ出場となるRBレベオン・ベルなどスティーラーズはオフェンス陣の主力が揃ってプレーオフを迎える。

一方のドルフィンズはQBライアン・タネヒルが膝の捻挫から復帰が間に合わず、最終3試合で2勝1敗の成績を残したマット・ムーアが先発することになりそうだ。10年目のムーアはパンサーズに在籍していた2008年にプレーオフを経験しているが、パスは投げていない。ディフェンシブエンド(DE)ダムコング・スー、DEキャメロン・ウェイクらを擁するディフェンスはチーム浮上の理由の一つとなったが、喪失距離では球団ワーストの6,122ヤードを許している。ビッグプレーを量産するスティーラーズオフェンスには分が悪いだろう。

NFC ジャイアンツ(第5シード、11勝5敗)@パッカーズ(第4シード、10勝6敗)

パサー対決が見どころとなるのはジャイアンツ対パッカーズ戦だ。イーライ・マニングとアーロン・ロジャースはともにスーパーボウルMVPを獲得した好パサーである。マニングとワイドレシーバー(WR)オデル・ベッカム、ロジャースとWRジョーディ・ネルソンのコンビネーションがどれだけタッチダウンを生産するかで勝敗が決まるといっていい。

コーナーバック(CB)に故障者が多いパッカーズのセカンダリーはマニングには攻めやすい。また、ロジャースは足でパスラッシュをかいくぐることを得意とし、これもビッグプレーを生みだすことが可能だ。点の取り合いとなる可能性が高く、面白い空中戦が期待できる。

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いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。