コラム

カーソン・ウェンツが今季絶望、昨季レイダースの悪夢再び?

2017年12月16日(土) 20:33

フィラデルフィア・イーグルスのカーソン・ウェンツ【AP Photo/Mark J. Terrill】

イーグルス(11勝2敗)が4年ぶりの地区優勝を決めたシーズン第14週のラムズ戦で、皮肉なことに今季のチーム躍進の原動力だったクオーターバック(QB)カーソン・ウェンツが左膝ACLを断裂するケガを負い、今季絶望となった。今後は控えのニック・フォールズが先発QBを務める。

NFL2年目にして大きく成長し、早くもフランチャイズQBとしての地位を確立したウェンツの離脱は痛い。シングルシーズンの球団記録となった33タッチダウンパスを量産するなど今季のリーグMVPの有力候補でもあり、オフェンスの得点力はウェンツあってのものだからだ。

進境著しいチームがプレーオフ出場を決めた直後にエースQBを失う例では昨年のレイダースが記憶に新しい。デレック・カーが第16週に脚を骨折して戦列を離れたのだ。カー健在の時にはスーパーボウルも夢ではなかったレイダースだが、最終的にはチーフスに逆転の地区優勝を許し、14年ぶりとなったプレーオフでは初戦敗退の憂き目を見た。

イーグルスもその轍(てつ)を踏んでしまうのか。

幸いなことにウェンツの穴を埋めるのはベテランのフォールズだ。2013年にはチップ・ケリーがヘッドコーチ(HC)に就任した初年度のイーグルスを、27タッチダウンに対して被インターセプトはわずか2という好調ぶりで地区優勝に導いた。そう、前回のイーグルスの地区優勝時のQBがフォールズだったのだ。

この点で先発経験のなかった新人コナー・クックをスターター起用せざるを得なかった昨年のレイダースとは事情が異なる。

第14週の前まで今季わずか4回しかパスを投げていなかったフォールズだが、昨季在籍していたチーフスではダグ・ピーダーソンHCが攻撃コーディネーターを務めていたため、そのシステムは十分に経験済みだ。

また、すでに地区優勝を決めていることから、少なくとも1試合はホームで戦えるのも好材料だ。プレーオフに突入するまで3試合を残しており、その間に他のオフェンススターターとタイミングを合わせられる。

もちろん、フォールズにウェンツ並みのパフォーマンスを求めるのは酷で、オフェンスのほかのメンバーやディフェンスが奮起しなければならない。その点でもランニングバック(RB)にレギャレット・ブラント、ジェイ・アジャイがおり、アルション・ジェフリー、ネルソン・アゴローが好調なレシーバー陣も心強い。トータル4位、失点5位タイのディフェンスもフォールズの負担を軽くするだろう。

今年の話題の多くをさらったウェンツをプレーオフで見られないのは残念だが、イーグルスが昨年のレイダースのように急降下するような事態は避けられるだろう。バイキングス(10勝3敗)、9勝4敗で並ぶセインツ、パンサーズ、ラムズらと繰り広げるトップシード争いでもまたわずかながらリードしている。エースQB不在となってもイーグルスをスーパーボウル候補から外すのはまだ早そうだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。