コラム

今や人気ナンバー1! QBカーク・カズンズに最適のチームはどこだ?

2018年03月11日(日) 09:41

ワシントン・レッドスキンズのカーク・カズンズ【Aaron M. Sprecher via AP】

アメリカ東部時間(以下同)3月6日(火)16時をもって、2017年シーズン限りで契約の切れる所属選手にチームがフランチャイズまたはトランジッション指名をして優先契約交渉権を取得できる期間が終了した。これらの指名を受けなかった選手は3月14日16時にリーグイヤーが正式に2017年から2018年に切り替わると同時にフリーエージェント(FA)となり、所属チームを含む全32チームとの契約交渉が可能になる。

昨年、NFLのクオーターバック(QB)として史上初めて2年連続でチームからフランチャイズ指名を受けたレッドスキンズのカーク・カズンズは期限までに指名を受けず、FAとなることが決定した。今オフ最大の目玉選手と言っていいだろう。

レッドスキンズはレギュラーシーズン終了直後にチーフスからアレックス・スミスをトレードで獲得することで合意に達した(トレードそのものは新リーグイヤーが始まるまでは有効とならない)。チーフスは2年目を迎えるパトリック・マホームズを正QBにする方針だ。

カズンズは2012年にドラフト4巡指名を受けてレッドスキンズに入団した。当時は同年1巡全体2位指名のロバート・グリフィン三世の控えとしての立場だった。しかし、グリフィン三世が2年目にスランプに陥ると先発を任されるようになり、そのまま正QBの座を手に入れたのだった。

強肩の持ち主で、現在3年連続で4,000ヤードパッシングを達成している。2015年にフルタイムのスターターとなってからはパスの成功率は67%に達するなど安定したパサーとして評価を受ける。

ただし、チームをプレーオフに導くという点ではレッドスキンズを満足させる水準ではなかった。カズンズが初めて全16試合に先発出場した2015年にレッドスキンズはプレーオフに進出。このシーズン後にカズンズは入団時に締結した契約の満了を迎えたが、レッドスキンズはフランチャイズ指名して交渉権を獲得しておきながら、長期契約の内容で合意に達せず1年契約でお茶を濁した。

翌年は最終戦のジャイアンツ戦に敗れてシーズン終了を迎えている。2年連続でプレーオフに出場していれば状況は違ったのだろうが、この大事な試合でカズンズが2回の被インターセプトを犯して敗因の一端を担ったためにやはり契約延長は手に入れられなかった。

レッドスキンズからは評価を受けなかったカズンズだが、先発QBを必要とするチームにとっては魅力的な存在だ。NFL向きのポケットパサーであるし、肩の強さとパスの正確さは実証済みだ。海のものとも山のものとも分からないカレッジQBをドラフトで獲得して育成するよりもよっぽど手早く、確実に戦力として計算できるのだ。QB以外の戦力はある程度揃っている、いわゆる“win now(優勝を狙うなら今)”のチームは是が非にも欲しい存在だ。

FAとなる以上、カズンズに選択肢がある。年俸を基準にしてもいいし、スーパーボウルを狙えるチームという観点から選んでもいいだろう。

カズンズに興味を示しているチームはジェッツ、ブロンコス、バイキングス、カーディナルス、ブラウンズだといわれる。カズンズが“win now”を重視するならブロンコス、バイキングス、カーディナルスが狙い目だ。レシーバーに人材がそろっているだけでなく、ディフェンスも強いチームだからだ。ただ、バイキングスはケース・キーナム、テディ・ブリッジウォーター、サム・ブラッドフォードらと再契約という切り札も持っているため、契約条件を抑えてくる可能性もある。カーディナルスはワイドレシーバー(WR)ラリー・フィッツジェラルドがあと1、2年のうちに引退するとみられており、その後の人材不足に苦労しそうだ。

ブラウンズは全体1位指名と4位指名を持っており、カレッジ界から有能なQBを獲得できる位置にいる。今年はQBの人材が豊富だから、カズンズの年俸が吊り上るようなら交渉を切り上げてドラフトでのQB指名に傾くことは十分に考えられる。

こうするとカズンズに最適なのはブロンコスだという答えになる。ジェッツは残念ながら再建途上にあり、カズンズには移籍先として魅力的に映らはないはずだ。ブロンコスはバイキングスに比べるとレシーバーに人材が薄いが、鉄壁なディフェンスでスーパーボウルを制した2015年からまだ時が浅く、チームに安定感がある。チャージャーズのフィリップ・リバースやレイダーズのデレック・カーなど強肩揃いのディビジョンでカズンズの能力も発揮できるだろう。

今年のオフはFAとドラフトを通じてQBが大きな注目を集めそうだ。すでに終了したスカウティングコンバインや今後控えるプロデー(大学がNFLスカウトを招いて主催するトライアウト)を経て各チームともに補強戦略を練る。FAとなっているQBは早い者勝ちで争奪戦が繰り広げられ、控えQBの需要も高い昨今では年俸が高くなる傾向にある。今年のオフの最大の注目ポジションはQBだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。