コラム

パスキャッチ論争に結論? NFLがルール見直しへ

2018年03月04日(日) 13:23


ピッツバーグ・スティーラーズのジェシー・ジェームズ【AP Photo/Don Wright】

NFLではスカウティングコンバインが始まり、ドラフトでプロ入りを目指す学生たちが自分の身体能力をアピールすべく懸命なパフォーマンスを見せている。

スカウティングコンバインは各チームからヘッドコーチ(HC)やジェネラルマネジャー(GM)など首脳陣が集結するため、リーグ全体の問題や課題を議論する場でもある。NFLのルールを監視する立場にある競技委員会がルール改正のたたき台を作るのもこの機会だ。競技委員会はルール改正案をオーナー会議に提案し、全32人のオーナーによって議決される。

今年はパスに関わる大きなルール変更が2点協議される見込みだ。パスキャッチルールの見直しとディフェンスによるパスインターフェアの罰則の変更である。

パスキャッチルールは毎年のように改正が行われており、その都度ややこしさを増している印象だ。得にレシーバーがグラウンドに倒れ込みながらパスキャッチを試みる場合は判断が難しい。

2017年シーズンも第15週に行われたスティーラーズ対ペイトリオッツ戦の第4クオーター終盤、タイトエンド(TE)ジェシー・ジェームズのエンドゾーン際でのプレーが問題となった。ベン・ロスリスバーガーからのパスをキャッチしようとしたジェームズは、ボールを持った両手をエンドゾーンに伸ばしながら倒れ込んだ。左肘がエンドゾーン内のグラウンドに就いた拍子にボールはジェームズの手からこぼれ落ちた。

1度はパスキャッチ成立とタッチダウンの判定が出たが、オフィシャルレビューの結果、パス失敗に覆っている。ボールの確保(コントロール)ができていたか否かが焦点となり、レビューではボールのコントロールを失ったと判断されたのである。

ルールブックには「倒れ込みながらパスキャッチを試みるプレーヤーは、グラウンドに接触するまでボールのコントロールを維持しなければならない」と明記されている。ジェームズの場合は彼の左肘が地面に着くまでにボールの確保が維持されなかったと判定された。エンドゾーンの場合は選手に確保されたボールの先端がゴールラインを越えた時点でタッチダウンが成立するとの議論もあるが、NFLはそもそもパスキャッチ自体が成立していないと判断する。

こうした事例を受けてロジャー・グッデルは競技委員会にパスキャッチルールの見直しを命じた。競技委員会はより分かりやすい判断基準を設けるものと見られている。

ただ、これが理解しにくいパスキャッチルールの解決策となるかは疑問だ。その理由は精度が向上し続けるリプレー技術にある。スーパースローなどと呼ばれる高解像度のスロー再生が可能となったことでわずかな動きも見られるようになった。どんなパスでもキャッチの瞬間はいくらかの「揺らぎ」があるものだ。これがルールを厳密に適用しようとするオフィシャルの目にはボールの確保不成立と映るのだ。

スロー再生技術の向上はリプレーが正確な判断材料となるという意味では歓迎すべきことだが、人間の肉眼と能力差があまりにも広がりすぎるとむしろ煩雑さを増して競技そのものの面白さを損なってしまうのかもしれない。

NFLにおけるディフェンスのパスインターフェアの罰則はスポットオブファールかつオートマチックファーストダウンである。すなわち、ボールは反則地点まで進み、オフェンスにファーストダウンが与えられる。これを最大15ヤードの罰退に抑えようとするのが現在検討されている案だ。

このルール変更の推進派は50ヤードを超える罰退がゲームに及ぼす影響が大きいことを指摘する。逆に慎重派はロングパスの際に、ディフェンダーがレシーバーをつかんだりタックルしたりすることで敢えて反則を犯し、15ヤードの罰則で済ませようとする事態を懸念する。

ロングパスによってディフェンダーのパスインターフェアを誘うことを戦術のひとつとしているチームは少なくない。サイドライン際を縦に上がるレシーバーをディフェンダーがマンツーマンでカバーしているとする。クオーターバックはアウトオブバウンズに出るパスをわざとショートめに投げる。レシーバーがボールに反応しようとスピードダウンすれば、あとから追いかけてくるディフェンダーと衝突するため、多くの場合、ディフェンダーがパスインターフェアをコールされるのだ。

こうしたプレーをロングパスの代わりに活用することでオフェンスは難なく陣地を稼ぐことができる。是とするか否かは別の議論だが、これを利用するチームがあるのは事実だ。罰則の変更が決定すれば戦術にも大きく影響するだろう。

ルールは見ている人にとって分かりやすく、どの審判でも同じ判定が行われるものが望ましい。現状ではそうでないから毎年のようにルール改正が検討されるのだ。その改正を受けてチームがどう利用するかは頭の使いどころだ。これもまたNFLの戦術の一つだ。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。