驚きのNFL“公式ピザ”交代劇
2018年03月12日(月) 07:52
現地2月28日、NFLはピザチェーン大手ピザハットと公式スポンサー契約を結んだことを発表した。この件が注目を集めたのは前日27日にそれまでピザの公式スポンサーだった競合パパ・ジョンズが双方合意の上で契約を打ち切ったと発表したばかりだったためである。
パパ・ジョンズは2010年からNFLの公式スポンサーとなっていた。NFLのロゴなどを使った広告掲出やスーパーボウルなどでの出店など積極的に展開し、PRに務めていたのである。特に元ブロンコスのクオーターバック(QB)ペイトン・マニング氏はCMに起用され、同社創設者でCEOを務めていたジョン・シュナッター氏と共演し、同社の顔ともいえる存在だった。さらにコロラド州のフランチャイズ店21店舗を買収したほどである。
そんなNFLとパパ・ジョンズの長年に渡る蜜月が突如終わりを告げるきっかけとなったのは昨年10月の出来事だ。シュナッターCEOが投資家らとの電話会議で売り上げ不振について「NFLがわれわれを傷つけている。NFLに失望した。そのリーダーシップでこれを解決できなかった」と発言したのだ。“これ”とは一昨年、49ersのQBだったコリン・キャパニックが始め、その後、NFLに広がった試合前の国歌斉唱時に起立しないなどの人種差別に対する抗議行動のことを示している。この抗議行動はトランプ大統領の発言など当時から大きな論争となっており、この発言で同社は否定派として論争に巻き込まれることとなった。シュナッター氏が保守派として知られ、2016年の大統領選でトランプ候補に献金していたことも背景にあった。その結果、売り上げ、同社の株価はさらに低下したのである。
これを受け、シュナッター氏は12月いっぱいでCEOを辞任して会長に退き、社長だったスティーブ・リッチー氏がCEOを引き継いで体制の刷新を図っている。しかし、それでも不十分と見たようで、契約を3年残して公式スポンサーを降りる決断をしたようだ。両社共同の声明で「NFLとパパ・ジョンズは公式リーグのスポンサーシップから、22のNFLチームとの個別パートナー契約、放送とデジタルメディアの存在感、そしてスポーツの主要人物に焦点を当てるという相互決定を下した」とコメントしている。さらにリッチーCEOは「NFLはわれわれにとって重要なチャネルであり続けるが、この顧客にリーチし、活性化するためのより良い方法があると判断した」と述べた。
こうして空いたピザ部門の公式スポンサーをわずか1日で埋めることとなったのが日本でもお馴染みのピザハットだ。ピザハットはアメリカ国内に7,200店舗、世界では100カ国で1万6,700店舗以上を出店している。アメリカでの総売り上げは141億ドル(約1兆4,946億円)に上り、ピザ業界最大手だ。ちなみに2位はドミノ・ピザで3位がパパ・ジョンズである。契約は2021年までで、契約料などは公表されていないが、パパ・ジョンズ以上の金額になった模様だ。
契約についてロジャー・グッデルNFLコミッショナーは「NFLの試合を見ながら多くのファンがピザを楽しんでいることを知っており、業界リーダーで、アメリカの人気ブランドの1つであるピザハットを公式リーグのスポンサーとして迎え入れることに興奮している。家族、友人、そして楽しさにおいて、パートナーに対してわれわれが探している創造性をピザハットは持っています。われわれはファンのためにこれまで以上にアットホームなNFL体験を創造するため共に働くことを楽しみにしています」と述べている。
対して、ピザハットアメリカ法人のアーティー・スターズ社長も「NFLのスタジアムは毎週満員になる一方、何百万人ものファンが自宅で試合を観戦しています。私たちは7,200店のレストランと15万人のフットボールに夢中なチームメンバーによって、ファンをスポーツにより近づける最高の力を有しています。このリーグのパートナーシップはピザハット、NFL、そしてピザとフットボールを愛する皆にとって最高の楽しさを作り出す無限の可能性があります」とコメントした。
今回の公式契約により、ピザハットは全32チームのロゴを含む、包括的で排他的な権利行使が可能となる。ゲームチケットのプレゼントやNFLエキスペリエンスへの出展やファン体験イベントの開催も期待されるところだ。各チームとの個別契約拡大も促進されることだろう。最初のパートナーシップ行使は来月ダラスのAT&Tスタジアムで開催されるドラフトになる予定だ。ピザハットはグローバル本社をノースダラスに置いている。
スターズ社長の言うように、アメリカではNFLテレビ観戦とピザは密接な関係にある。2013年の調査ではフットボールを観戦している最中にピザを食べたいという回答が37%を占めた。また、スーパーボウル当日はピザが1年で一番オーダーされる日として知られており、ピザハットだけで約200万枚もの売り上げがあるほどだ。さらにファンだけでなく、選手たちの間でもピザハットは好まれているようだ。昨年末、ワシントンポスト紙がレッドスキンズの選手15人にどのピザチェーンが好きか尋ねたところ、ピザハットが1位に輝いたとのことである。
いずれにせよ、間髪置かずに新たな公式契約を獲得するNFLのブランド力と交渉力の高さには感嘆せざるを得ない。
わたなべ・ふみとし
- 渡辺 史敏
- 兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。