まれに見るQB大移動、最後に笑うのは誰だ?
2018年03月15日(木) 11:36今年のオフほど先発クオーターバック(QB)の移籍が相次ぐのも珍しい。複数のチームを巻き込むシャッフルも発生しており、4月下旬に行われるドラフトとも関連して補強の動きが激しくなってきた。
発端はチーフスがアレックス・スミスをレッドスキンズにトレードしたこと。これによりレッドスキンズは過去2年間フランチャイズ指名してきたカーク・カズンズと袂を分かつことになった。かくしてカズンズの争奪戦が始まったのである。
カズンズ獲得にはブロンコスやカーディナルス、ジェッツが手をあげたと伝えられるが、彼の行先はバイキングスに決まったようだ。総額8,400万ドル(約90億円)の3年契約で移籍することになっている。そのバイキングスは昨年試合に出場した3人のQB全員が退団する。開幕時の3番手から先発の座を獲得し、バイキングスのNFC決勝進出の立役者となったケイス・キーナムはブロンコス入りが決定した。開幕先発を務めたサム・ブラッドフォードはカーディナルスと1年契約、一昨年の夏に膝の靱帯を複数断裂する重傷を負ったテディ・ブリッジウォーターはジェッツと1年契約を結んだ。
そのほか、ブラウンズはビルズからタイロッド・テイラーをトレードで獲得している。ドリュー・ブリーズはセインツと2年の契約延長で合意に達し、フリーエージェント(FA)にはならなかった。
カズンズとバイキングス、キーナムとブロンコスはそれぞれ相性が良さそうだ。レシーバー陣の揃っているバイキングスならカズンズの強肩が生きるし、ディフェンスの強いブロンコスではキーナムの負担も重くない。
一方でカーディナルスはカズンズやキーナムの争奪戦に敗れた感は否めない。ブラッドフォードは経験豊富で有能なQBだが、あまりにも故障が多すぎる。彼に提示したのが1年契約なのは、いざという時に傷口が深くならずに解雇できるように配慮したからだ。その意味ではブリッジウォーターと契約したジェッツも同様だが、こちらはジョシュ・マッカウンと再契約することで保険をかけている。ジェッツはQBの人材が豊富と言われるドラフトで新人を指名し、ブリッジウォーターとマッカウンを新人が育つまでの“橋渡し”として起用するつもりだろう。
テイラーを放出したビルズはベンガルズのバックアップ、AJ・マカロンと2年契約を結んだ。これで暫定的に2年目のネイサン・ピーターマンとの2人体制になったが、ドラフト1巡での2つを含み、3巡までに6つの指名権を持っているのは有利だ。これら1つひとつを使って多くの人材を補強してもいいし、複数の指名権を組み合わせて指名順位のトレードアップを狙ってもいい。依然としてQB指名の可能性も残されており、テイラーの喪失はそれほど大きな痛手とはならない。
そのテイラーはブラウンズの開幕先発を任せられる可能性が高いものの、スターターの座をいつまで維持できるかは未知数だ。今年のブラウンズは1巡で全体の1位と4位指名権を持っており、どちらかを使ってQBを指名する可能性は依然として残されているからだ。
そもそも発端を作ったチーフスとレッドスキンズはこの大移動の勝者なのか? チーフスは2年目を迎えるパトリック・マホームズに先発を託す。先発経験は1試合しかなく、大きな賭けになる。レッドスキンズはベテランのスミスを獲得したのはいいが、あと何年スターターとして起用できるか。やはり新たな人材は確保しなければいけない。
大規模な移籍のあおりを受ける元先発QBも少なくない。その最たる例がブロンコスだ。トレバー・シーミアンはカズンズのバックアップとしてバイキングスにトレードされ、パックストン・リンチ、ブロック・オズワイラーはキーナムに続く2番手争いを強いられる。また、ブラウンズのデショーン・カイザーはパッカーズに譲渡された。
最後に誰が笑うかはシーズンが終わるまで分からない。しかし、少なくとも現段階ではブロンコスとバイキングスが笑み浮かべ、カーディナルスとジェッツは歯がみをしていることだろう。そして、ドラフトをにらんでほくそ笑むビルズとブラウンズ。なかなか奥の深いQB大移動だ。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。