コラム

リーグ乱立時代? 続々誕生する新興プロリーグ

2018年03月24日(土) 11:26


NFLロゴ【Aaron M. Sprecher via AP】

まさに寝耳に水だ。来年にも新たなプロフットボールリーグが誕生するとのニュースが飛び込んできた。その名も“アライアンス・オブ・アメリカンフットボール(AAF)”で、来年のスーパーボウル直後にもリーグ戦をスタートさせるという。

このプロジェクトの中心にいるのはチャーリー・エバーソルなる人物で、アメリカのテレビ界では敏腕プロデューサーとして名をはせた。NFLの“サンデーナイトフットボール”の生みの親でもある。共同設立者にはビルズやコルツでジェネラルマネジャー(GM)を務めたビル・ポリアンの間を連ねる。

出資者には元スティーラーズのトロイ・ポラマルやハインズ・ウォードがおり、彼らがNFLで培ったノウハウを生かしたリーグとなりそうだ。リーグ活動期間は来年2月9日から10週間。8チームから成るリーグで、4月の最終週末に王座決定戦が行われる予定だ。ただし、どの都市にチームが誕生するかなどはまだ公表されていない。

NFL以外のプロリーグとしてはプロレス団体が出資する“XFL”が2020年に復活することがすでに発表されている。また、NFLやCFLの育成リーグ的な位置づけとなる“スプリングリーグ”も今年で2季目を迎える。

NFLの対抗リーグはこれまでもいくつも誕生してきた。現在のAFCの母体となったAFLを始め、ワールドリーグ、USFL、旧XFL、UFLなどが存在したが、いずれも短期に終わっている。

新興リーグが短命に終わっている主な理由は経済基盤が確立されていなかったことだ。リーグ運営には莫大な資金が必要だ。NFLはその絶大な人気を背景に放映権料を勝ち取り、チケットやマーチャンダイジングでも収益をあげることで今日の繁栄を築いた。しかし、タレント確保に悩む新興リーグはこの点で常に後手に回った。

XFLはかつてたった1年で終了した反省を生かし、経営基盤を立て直してのリーグ復活を期すものであり、AAFはCBSスポーツによる中継が決まっているから知名度も上げやすい。過去の失敗例に学んだ運営方式で、長期存続を目指す。

それでも、これらのリーグがNFLに対抗できる存在になるとは考えにくい。たしかに、スーパーボウル終了後は8月のプレシーズンまでプロフットボールを見る機会はない。その隙間を狙ってファンにプロアメリカンフットボールの試合を提供しようとする狙いは悪くない。人材もNFLには行けないまでもNCAAでプレーした経験のある選手は集められるだろう。

しかし、NFLとのプレーレベルの差はいかんともしがたい。NFLはNCAAの中でもトップアスリートが集い、さらにNFL内でさえ激しい競争により淘汰されていく。同じ選手にしても試合を追うごとにレベルが向上し、スーパーボウルでは最高のパフォーマンスを発揮できる状態に仕上がっている。それこそがNFLのフットボールなのである。

つまり、スーパーボウルにおける個々の選手のパフォーマンスはそのシーズンの最高のものなのだ。だからこそスーパーボウルはあれだけの人気を誇るのである。

その試合を見た直後に、明らかにNFLよりもレベルの落ちる選手たちの、まだ発展途上のプレーを見て熱狂できるだろうか。NFLを1シーズン見てきて目の肥えたファンをXFLやAAF、スプリングリーグのプレーは満足させることができるのか。

もし、NFL以外の3リーグが乱立する事態となれば選手の奪い合いが起こる。NFLを目指す選手は当然これらのリーグには見向きもしないから、NCAAの2部以下の大学からも多くの人材が流れることになるのだろう。

アメリカに活躍の場を求める日本人選手には追い風になるかもしれない。NFLヨーロッパが存在しない現在では日本人選手がプロリーグに進む道は限りなく狭い。XFLやAAFがその受け皿になれば日本のフットボール選手にも新たな可能性が出てくる。逆に、コービー・キャメロン(元富士通フロンティアーズ)やケビン・クラフト(IBMビッグブルー)のようにNCAAで活躍した選手がXリーグに来ることは少なくなるかもしれない。

アメリカではシーズンスポーツの棲み分けがしっかりできていて、NFLが終わればマーチマッドネス(3月のバカ騒ぎ)と言われるバスケットボールのNCAAトーナメントが行われ、MLBの開幕があり、NBA、NHLがプレーオフへと突入する。そんなビッグイベント連発の春季にフットボールの付け入る余地はあるのかは疑問だ。

NFLのシーズン以外にもレベルの高いフットボールを見ることができれば理想だ。しかし、実際にはそれは夢物語に過ぎない。AAFも新XFLもその夢を現実のものにするリーグとはならないだろう。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。