コラム

人気イベントとなった2つの年中行事

2018年03月25日(日) 08:55


春の恒例行事を人気イベントへと育てる動きが加速している。スカウティングコンバインとドラフトだ。

先月27日から今月5日まで開催されたスカウティングコンバインでは今年のドラフトで上位指名が予想される有力選手がその運動能力や知力を競った。スカウティングコンバインは1982年に全米招待キャンプという形で開始され、1987年からはインディアナポリスで開催されるのが恒例となっている。

ただ、リーグと各チームにとって内輪の行事と捉えられていたため、長く非公開とされていたのである。転換点となったのが、2003年にNFL傘下のNFL専門チャンネルとして設立された『NFL Network(NFLネットワーク)』の登場だった。NFLネットワークは翌2004年のコンバインの様子を1時間番組として放送。これが注目されたため、年々放送時間を拡大し、生放送するようになり、さらに注目度を上げていったのである。今やNFLネットワークの独占放送や公式サイトでのストリーミングはすっかりお馴染みのものとなった。

また2004年に始まったNFLネットワークの人気キャスター、リッチ・アイゼンがスーツ姿で40ヤードダッシュを測定する行為も“ラン・リッチ・ラン”という名称でチャリティーイベント化されている。今年はこれに合わせ、NFLネットワークやコンバインの公式スポンサー『UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)』などが2万5,000ドルずつを小児病院に寄付したとのことだ。

さらに昨年からはコンバインを集客イベント化する試みも行われている。コンバインの会場であるルーカスオイル・スタジアムへのファンの入場は認められていないが、その代わりにスタジアムに隣接するインディア・コンベンションセンターで“NFLコンバイン・エクスペリエンス”と名付けられたイベントが入場無料で開催されるようになったのだ。

エクスペリエンスではコンバインの様子が中継上映されたほか、選手が行うベンチプレスや垂直跳びといった種目を体験できるアトラクションが設置され、楽しむことができた。さらにNFLのVR(仮想現実)映像体験やビンス・ロンバルディトロフィーや歴代スーパーボウルリングと写真を撮れるコーナー、グッズショップなども展開。選手やコルツチアリーダーのサイン会も開催されている。

一方、コンバイン以上にすっかり大人気イベントとして成長、定着しているのがドラフトだ。ドラフトも、もともとはリーグ内の非公開行事にすぎなかった。しかし、1980年にスポーツ専門局『ESPN』が生中継を開始すると徐々に人気を獲得。1995年にはファンを会場に入れる集客イベント化され、有力選手を会場に招待し、指名されるとコミッショナーが祝福するといった演出も取り入れられた。さらに2010年にはより多くの視聴者を獲得するため、1巡を木曜夜、2巡と3巡を金曜夜、それ以降を土曜日の日中に実施する3日制が導入された。1巡の木曜日に関しては同日に行われたNBAの中継を上回る視聴者数を選るほどの人気となっている。

開催地に関しても2014年まではNFL本部のあるニューヨーク市に固定されていたが、2015年と2016年のシカゴを皮切りに開催を招致した都市で行われるようになっている。昨年はフィラデルフィアで初の屋外開催が実現し、3日間で25万人もの参加者を記録した。その経済効果は9,400万ドル、3万人の雇用を創出したとされている。

今年のドラフトは4月26日(木)から28日(土)に予定され、会場となるのはカウボーイズの本拠地AT&Tスタジアムだ。収容人数が約10万人のため、昨年を上回る参加者が見込まれている。オンラインでの入場申し込みは全米から25万人以上が登録しているという。

スタジアム内にはドラフト指名を行うためのNFLドラフトシアターが設置されるが、今回は全32チームのファンが着席する“インナーサークル”と名付けられた特別エリアが設けられ、選手やレジェンドと共に指名を見守るとともにチームを応援し、ライバルチームのファンと盛り上がる演出が展開されるそうだ。

さらにスタジアムの外ではフットボールフィールド26面分もの大きさのテーマーパーク、“NFLドラフト・エクスペリエンス”も開催される予定だ。パスやランの体験アトラクションやインタラクティブな展示、サイン会などが行われる。

このように、最初は単なる行事にすぎなかったもののコンテンツとしての魅力に気づき、それを人気イベント、ビジネスへの育てる能力もNFLのすごさの一つだといえるだろう。

わたなべ・ふみとし

渡辺 史敏
兵庫県生まれ
ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』、『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』、『Number』などで執筆中。