余裕か無策か、選手の流出続くペイトリオッツ
2018年04月02日(月) 00:05クオーターバック(QB)を中心に激しく動いている今年のフリーエージェント(FA)市場だが、活発な補強を続けるラムズやブラウンズとは対照的にAFC王者ペイトリオッツの動きが鈍い。いや、むしろ選手の流出を静観している印象すらある。
このオフはレフトタックル(LT)ネイト・ソルダー(ジャイアンツ)を始め、ランニングバック(RB)ディオン・ルイス(タイタンズ)、ワイドレシーバー(WR)ダニー・アメンドーラ(ドルフィンズ)、そして、スーパーボウルで先発から外されて話題となったコーナーバック(CB)マルコム・バトラー(タイタンズ)が退団した。いずれも近年のスーパーボウル出場に大きな貢献のあった選手ばかりだ。
これは世代交代を進める動きなのか、それとも流出を止める策がないのか。
ソルダーは2011年の入団以来、トム・ブレイディのブラインドサイドを守ってきた。2015年に故障で4試合の出場にとどまったシーズンを境に選手としてのピークが過ぎた感は否めないが、それでもNFLでも最も安定したLTの一人だ。
チームにとってLTの交代は一大事である。オフェンスライン(OL)で最も重要なポジションであり、人材を見つけるのが難しいからだ。それなのにペイトリオッツはあっさりとFA移籍を容認してしまった。ペイトリオッツ公式サイトのデプスチャートではラエイドリアン・ワドル、マット・トービン(ともにNFL歴6年)、コール・クロストン、アントニオ・ガルシア(同2年)が名前を連ねるが、彼らの中からスターターが生まれるのかドラフトで指名するのか、またはFAに人材を求めるのかは不明だ。
バトラーの退団は半ば予想できたことだ。イーグルスに敗れたスーパーボウルで、バトラーはベースディフェンスでプレーすることがなかった。その理由はいまだに明らかにされておらず、ビル・ベリチックHC(ヘッドコーチ)との間に確執もうわさされる。こうした選手がチームに残る可能性はペイトリオッツにおいては極めて低く、移籍は既定路線だった。ただし、先発CBに定着していたバトラーの穴をいかに埋めるかはペイトリオッツが直面する今季の大きな課題となる。
ルイスについてはそれほど大きな痛手ではないかもしれない。ラン、パスで多彩な働きをする選手ではあるが、ジェームズ・ホワイトの陰に隠れて出場機会が減っていたのも事実だ。ペイトリオッツのRB陣は不動のエースこそ不在だが、状況に応じて使い分けるに十分な人材はそろっている。
アメンドーラの流出はどうか。タイトエンド(TE)ロブ・グロンコウスキーが「ダニープレーオフ」とのニックネームをつけたように2016年、2017年シーズンのプレーオフにおける彼の活躍は目を見張るものがあった。特に昨年はシーズン前にACL断裂で全休が決まったジュリアン・エデルマンの穴を埋める働きもした。ブレイディというパスコントロールのいいQBがいてこそ真価を発揮できるタイプのレシーバーかもしれないが、オフェンスには必要なタレントだっただろう。
これらの選手の喪失がどのように影響するかは、少なくともオフの補強が終わるまでは判断できない。過去にも主力選手の退団を経験しながらコンスタントに強いチームを作ってきたペイトリオッツだから、影響を最小限にとどめる方策をすでに講じているのかもしれない。
しかし、気になるのはこうした選手がなぜチーム残留ではなく、移籍を選択したかだ。ペイトリオッツのように毎年プレーオフに出場することがほぼ確実で、高い確率でスーパーボウルを狙えるチームは誰もが憧れる。残留できる選択肢があるのならそれを選ぶのが普通だろう。
確かに、すでにスーパーボウル優勝を経験している以上、さらに有利な契約を求めて他球団に移籍する選択肢もある。だが、結束の強いペイトリオッツではこうした理由で退団する選手は過去にあまりいなかったように思う。
それが変わったと感じたのは昨年だ。RBルギャレット・ブラントとディフェンシブエンド(DE)クリス・ロングがイーグルスに移籍した。結果的にこの2人は古巣のペイトリオッツを破る形で2年連続のリーグ制覇を経験するのだが、ペイトリオッツに対するロイヤリティー(忠誠心)が希薄な印象を受けたのだ。
今年でいえばソルダーとアメンドーラの移籍もチームの求心力が弱まった証拠に思える。ソルダーは前述の通りOLの要だった。そのソルダーが安定した地位を捨ててまで移籍を決断したには相当の理由があったのではないか。アメンドーラは昨年チームに残留するために契約の見直し(ペイカット)を受諾しなければならなかった。このことがチームに対する信頼を失わせたと考えられないこともない。
昨シーズン中には控えQBだったジミー・ガロポロのトレード放出に関連してベリチック、ブレイディ、オーナーのロバート・クラフト氏にそれぞれの思惑があり、意見の衝突があったとも伝えられた。それに関連してベリチックの勇退がうわさされもした。
こうしたチーム内のゴタゴタ(ただし、事実という保証はない)がかつての主力選手たちの退団に関連しているとすれば、これは看過できる事態ではない。杞憂に終わればいいのだが、ペイトリオッツがスーパーボウルで敗れた直後に続出する主要選手の離脱に一抹の不安を感じざるを得ない。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。