コラム

ドラフト有力候補紹介:その1 - QBサム・ダーノルド(USC)

2018年04月08日(日) 06:55

2017年NFLドラフト会議【AP Photo/Matt Rourke】

いよいよNFLのドラフトが近づいてきた。今年はテキサス州アーリントンのAT&Tスタジアムで現地時間4月26日(木)から28日(土)の日程で行われる。

今年のドラフトはクオーターバック(QB)にタレントが揃っている。今回紹介するUSC(南カリフォルニア大学)のサム・ダーノルドを始め、ベイカー・メイフィールド(オクラホマ大学)、ジョシュ・アレン(ワイオミング大学)、ジョシュ・ローゼン(UCLA)、ラマー・ジャクソン(ルイビル大学)らが1巡で指名を受ける可能性がある。

ジョン・エルウェイ、ダン・マリーノ、ジム・ケリーらを輩出した1983年や、イーライ・マニング、ベン・ロスリスバーガー、フィリップ・リバースらが指名された2004年にも匹敵する人材の宝庫だ。

その中でも全体1位指名権を持つブラウンズが獲得を狙うのではないかと予想されているのがダーノルドである。

ダーノルドが脚光を浴びたのは2016年だ。レッドシャーツを経たあとの大学1年目で不調のマックス・ブラウンに代わってシーズン4試合目からスターターを任された。デビュー戦となったユタ大学との試合では敗れたものの、その後はチームを8連勝に導き、ローズボウルでは大会新記録となる5タッチダウンパスを成功させて勝利した。

この年のパス成功率は67パーセントを越え、31タッチダウンパスに対して被インターセプトはわずかに9という好成績だった。NFLの多くのチームが採用している、いわゆるプロタイプのオフェンスシステムで育っている。言葉を替えればポケットパサータイプで、その意味で身体能力に頼ったプレーをするジャクソンなどに比べてもプロ向きとの評判だ。

昨季序盤はチームメイトのケガの影響もあってやや低調な滑り出しとなったが、中盤以降は持ち直して4,000ヤード超のパッシングをマーク。USCはパック12カンファレンスの優勝を果たし、コットンボウルに進出している。

わずか2年の大学生活だったがダーノルドはプロ入りを宣言してNFL候補生となった。練習態度もまじめでリーダーシップもあるとの評判だ。かなりの自信家でもある。それが現れたのが3月22日にUSCで行われたプロデーだ。

ダーノルドがプレーを披露するということもあり、NFLの全32チームがスタッフを派遣した――もちろんダーノルドだけが目当てではなかったが。この時、天候悪化が予報されており、気を利かせた大学スタッフがQBのセッション時間を早めようと計らった。カリフォルニアでは珍しい激しい雨の中でダーノルドが普段通りのパフォーマンスができない恐れがあったからだ。

しかし、その案に抗ったのがダーノルド自身だった。「雨の中だってパスは投げられる。僕は気にしないよ」とダーノルドは言ったそうだ。そして、この後に続いた言葉が彼の自信に満ちた態度を表している。

「だって僕はクリーブランドに行くことになるかもしれないんだから」。

この言葉がブラウンズから1巡指名を受けることを指したのか、またはこの後に予定されていたブラウンズ施設でのトライアウトを意味したのかは定かではない。それでもクリーブランドでの冬季の悪天候を想定したものだろう。

技術的な面でいえばポケットの中でのパスには定評がある。ポケットから飛び出して走りながら投げるパスも正確だとされる。肩の強さは評価が分かれる。長いパスになると失速するというスカウトもいれば、NFLでも十分に通用するとみる向きもある。

ダーノルドに熱い視線を送っていると予測されているのがブラウンズとジャイアンツだ。ブラウンズはトップ指名権を持つため、どのQBでも指名できる。ジャイアンツは37歳となり契約も2019年で終了するマニングの後継者としてダーノルドが欲しい。ダーノルドなら現在のオフェンスシステムを変えずにスムーズに世代交代が行えるからだ。

ただし、ジャイアンツもトレードアップしてまでダーノルド獲得には乗り出さないだろう。それだけ今年のドラフト候補生にはQBが揃っている。

ブラウンズは1巡4番目にも指名権を持っているから、必ずしも1位指名権をQBに使うとは限らない。このあたりが今年のドラフト予想をさらに面白いものとしている。ダーノルド以外の選手がいの一番の指名を受ける可能性だって十分にある。

どんなドラマが生まれるのか、今から楽しみである。

いけざわ・ひろし

生沢 浩
1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。