ドラフト有力候補紹介:その4 - CBデンゼル・ウォード(オハイオ州立大学)
2018年04月27日(金) 05:34今年のドラフト候補生の中で、セカンダリーで最も高い評価を受けているのがオハイオ州立大学のコーナーバック(CB)デンゼル・ウォードだ。モックドラフトによってはトップ10以内での指名を予想している。その反面、彼のフィジカル面での不安を理由に1巡下位から2巡指名が妥当ではないかとの予測もある。なぜこれほどまでに評価が分かれるのか。
否定派がまず挙げるのは彼のサイズだ。180cm、87㎏は現在のNFLのCBでは小柄な部類に入る。ワイドレシーバー(WR)の大型化が進み、タイトエンド(TE)もWR並みのスピードを兼ね備えてきた今日のNFLではCBに求められる身長の基準は6フィート(約183センチ)以上だとされる。もちろん6フィート以下のサイズでも活躍するCBは多くいるが、パス守備に高さが求められる傾向があるのは事実だ。
実際には身長の高いCBは簡単には見つけにくい。そのため大型WRのパス守備にもセーフティ(S)をあてがうチームが増えてきた。今や5人のセカンダリーを配置する“ニッケル”とは必ずしも“3CB、2S”というパーソネルだけではなく、チームによっては“2CB、3S”を採用する。また、アウトサイドはCB、インサイドはSという常識も崩れてきた。今やSでも大型WRやTEのラインアップに合わせてアウトサイドを守るケースもあるのだ。
そこで再評価されてきているのがニッケルCBポジションだ。アウトサイドをサイズのあるCBやSが守る一方で、インサイドのパスコースを走るスロットレシーバーをカバーするのがニッケルCBだ。こちらは高さよりもスロットレシーバーの素早い動きやフィールドを横切るパスコースに対応するカバー力が要求される。
かつてはニッケルCBといえば3番手、すなわち控えのCBというイメージが強かったが最近では先発ポジションの一つと数えられている。それだけ、いわゆるベースディフェンス(7人のフロント+4人のセカンダリー)という概念が薄れ、ニッケルやダイムディフェンスが頻繁に使われるようになったということだ。
ウォードはこのニッケルCBとしてNFLで活路を見出す可能性がある。ウォードはスピードとクイックネス、テクニックに長けており、まさにニッケルCB向きの資質を持っている。つまり、従来のCBのイメージとしては評価を受けにくいが、より重要性を増したニッケルCBとしてはNFLですぐに通用する人材なのだ。
ウォードの先発経験の少なさをネガティブポイントに挙げる評論家もいる。ウォードは1年生時から試合に出場しているが、先発ポジションをとったのは昨年の3年生時だけだ。QBやCBなどのスキルポジションの選手は先発経験1年だけでは十分な判断ができないというのはNFLスカウトの常識だ。
しかし、ウォードが1年生から2年生の間にオハイオ州立大学で先発CBを務めていたのはイーライ・アップル(現ジャイアンツ)、ギャレオン・コンリー(現レイダーズ)、マーション・ラティモア(現セインツ)だ。いずれも昨年と一昨年のドラフトで1巡指名を受けている逸材である。そして、ウォードは先発に定着した1年目で強豪の揃うビッグ10カンファレンスでオールアメリカとオールビッグ10に選出される活躍を見せた。
そして、最後に否定派が根拠とするのはウォードがプロ入りを決めたためにコットンボウルへの出場を辞退したことだ。ウォードはレギュラーシーズン終了後に4年生への進学を断念してプロ入りすることを決断した。そのため、ケガするリスクを避けるためにボウルゲームの欠場を決めたのだ。
この決断は少なからず非難を受けた。後にウォード自身が「(全米王座につながる)プレーオフなら出場していた」と発言したこともあり、チームの勝利よりも自分の利益を優先したと受け取られたのだ。
この点についてはいくつかのNFLチームからスカウティングコンバインでの面接で聞かれたそうだ。ただし、どのチームも彼の決断についての意見を述べることはなく(つまり評価も批判もせず)、ウォードがどのようにして決断を下したのかに興味を持ったとのことだ。
コットンボウル欠場の決断をチームがどのように判断するかは不明だが、チームファーストの姿勢を問われない保証はない。
ウォードを身体能力の面や人格面でどう評価するかにはチームの個性が如実に表れるだろう。その意味でも彼がどのチームに、どの順位で指名されるのかは注目に値する。
いけざわ・ひろし
- 生沢 浩
- 1965年 北海道生まれ
ジャパンタイムズ運動部部長。上智大学でフットボールのプレイ経験がある。『アメリカンフットボールマガジン』、『タッチダウンPro』などに寄稿。NHK衛星放送および日本テレビ系CSチャンネルG+のNFL解説者。著書に『よくわかるアメリカンフットボール』(実業之日本社刊)、訳書に『NFLに学べ フットボール強化書』(ベースボールマガジン社刊)がある。日本人初のPro Football Writers Association of America会員。